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熊「そういやあの人居なかったけど、何かあったのか?」
『なっ、何も無いよ!裏道さんもいつの間にか居なくて…』
慌てて隠そうとするが、熊谷が訝しげに顔を覗き込んでくる。
熊「…俺に嘘が通じると思ってんのか?」
『………っ、お…思わない、デス。』
熊「ふっ。だよな。で、何があった。」
くしゃりと頭を撫でると真面目な顔をして聞いてきた。Aはかなり気まずそうに俯いて、なかなか口を開かない。
熊谷「そこまで言いづらい事、言われたのか。」
図星と言わんばかりにばっと顔を上げると熊谷の鋭い視線が合う。
『で、でも!私が迷惑かけちゃったから、裏道さんは悪く無いよ!』
熊「…。」
Aは何も言わずに立ち上がる熊谷の浴衣を掴む。その目は必死になって裏道の所へ行こうとする自分を止めようとしているのが分かる。
熊「そんな事言われて、裏道さんの事嫌じゃねぇの?」
『え…?』
熊「俺らは慣れてるけどAからすればあの人、ただの情緒不安定でキツい人だろ。」
熊谷がじっとAを見下ろす。確かに今日言われた事は正直キツいと思った。けど、普段の裏道からはそういう感じは受けた事が無かった。
『…私の憶測でしかないけど、繊細な人だと思うな。それに、優しいよ?』
熊「それ本気で言ってんのか?」
『うん。皆と一緒に仕事をするようになって側で見ていると裏道さん、何だかかんだで出来田さんの無茶振りとか受けちゃうし、子供達とも真剣に向き合ってるし…たまに本音が漏れてるのはテレビ的に大丈夫か心配になるけどね。』
普段働いている裏道を思い出すと、ふふっと笑いが溢れてくる。
『真面目で、不器用なのかな。初めて会った時も色々親切にしてくれたし。心配だってしてくれる。悪い人じゃ無いと思ってるよ。メンタルも波があるみたいだけど、それでも頑張って仕事して凄いなぁって。』
だからそんな事思わないよ、とふにゃりと笑う顔はあまり見る事が無い、目を細めて嬉しそうに笑う顔。
熊谷は、観念したかのようにため息を一つつくと椅子に座り直した。
熊「…2度目は無いからな。」
Aの頭をゆっくり撫でながら諦め口調で話す。そう言われると嬉しそうに頷く姿に何度目の"仕方ない"だろうか。そう思えてしまう笑顔だ。
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時