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『そしたら、私に何かあった時助けてくれると嬉しいな。』
池照は少し驚いたように何回か瞬きをすると撫でていたAの手を両手でぎゅっと握ってにこりと笑った。
池「……分かりました!Aさんに何かあれば必ず助けますから!」
『うん、頼りにしてるね。』
熊「池照、A。ここに居たのか。」
『うん、思ったより酔っちゃったみたいで。池照くんに少し涼しい所に連れてきてもらったんだ。』
熊「ほら、水買ってきたから飲んどけ。」
『…ありがとう。』
ふにゃりと笑う顔はいつもより柔らかい。これは慣れてない男からすれば格好の的だ。酒が入っているせいなのか?と思うがその顔は意外にも悪く無いと思った。
池「そういえば、出来田さんは?」
熊「潰してきたから問題ない。」
池「そうですか。そしたら僕、ちょっと用事あるので熊谷さん後はお願いします。」
熊「トイレか?」
池「ちょっと様子を見に行く人がいるだけです。Aさん、ゆっくり休んで下さいね。」
そう言って椅子から立つと旅館の奥へと歩いて行った。池照か見えなくなると熊谷はAの隣に腰を下ろす。
熊「いつもより飲んでるみたいだな。具合悪く無いか?」
『睡眠不足でいつもより酔いが早いだけだよ。…ふふっ、池照くんと同じ事聞くんだねぇ。』
熊「そりゃ心配だからな。」
『…心配?』
熊「…何か変な事言ったか?」
目をパチクリとさせるAに不思議そうにする熊谷。
『う、ううん。今の職場でそんな事言われた事無かったからびっくりしちゃって。』
熊「まぁそうだな。」
だよね、とは笑いながら返事をするA。
その笑顔が先程とは違い、どことなく違和感を感じる笑顔だった。そこまで心配される事なんて大人になれば確かに減る。それは分かっているが何かが気になりじっと見つめる熊谷。
『どうしたの?』
熊「…。」
熊谷の顔をまじまじと見るのは初めてかも知れない。キリッとした眉にいつもの無表情。切れ長の瞳に膝に肘をつきながらじっと見上げられる。
(熊谷さんも綺麗な顔してるなぁ…)
ふと、裏道を思い出すと先程冷たくされた事で胸が痛む。知らずに何か迷惑をかけてしまったのだろうか。嫌な思いでもさせてしまったのだろうか。
『…裏道さん、何かあったのかな。』
熊「裏道さん?」
ついぽつりと本音を零してしまったと思ったがもう遅い。
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時