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突然の提案に驚いて足が止まった。
Aを見るとすまなそうな顔をしながら裏道を見上げている。
『今回酔っ払って寝てしまった挙句…その、大人気なく大泣きしてしまって…でも、裏道さんはそんな私を受け止めてくれたからお礼、したくて。』
裏「そんな大した事してないけど…。」
『私にとっては嬉しかったんです。そんな事を言ってくれる人今まで会った事が無かったので…だから、私ができる事なら何かしたいんです!』
裏「……。」
『難しいですか…?』
裏「…なら、今度飯でも行く?」
『!…っはい!!是非行きましょう!』
今度は満面の笑みで嬉しそうに話すA。
この笑顔を見るだけでさっきまで胸の中で渦を巻いていた、モヤモヤとしていた感情が和らいでいく。裏道の疲れて固まった表情筋がふっと緩むのだ。
裏「そしたら今度空いてる日教えて。」
『分かりました!後で連絡しますね。裏道さんは週末の方が良いですか?』
裏「そうだな…仕事が終わってからでも構わないけど。」
『でしたら週末と平日両方考えておきます…っと、いつの間にか着いてましたね。』
気がつけば以前送り届けたアパートの前まで来ていた。
裏「そうだ、Aさん。」
『はい?』
裏「お礼は有難いけど、女性が『自分ができる事なら何かしたい』なんて簡単に言うなよ。」
『…何でですか?』
裏「何でって…男にそんな事言ったら何をされるか分からないんだぞ?変な事されたいのかよ?」
『あ、そうなんですね…気をつけます。』
裏「…本当に分かってんのか?」
『ふふっ、はい。大丈夫ですってば!』
裏「………ったく。」
裏道は屈託のない笑顔のAの頭をくしゃくしゃと撫でる。
『わっ!』
裏「…おやすみ、A。」
『…!!!………おやすみ、なさい。』
そう言って一瞬目を合わせると柔らかく笑い、そのまま背を向けて自宅への帰り道につく。
『……心臓に悪いですよ…裏道さん…。』
聞こえない声でぼそりと呟くと、Aも階段を上がり部屋に入って行った。
ーーーーー
荷物を片付けていると、スマホに通知が来ていた事を思い出した。改めてみると熊谷からの連絡だった。
『熊谷くん…どうしたんだろ。』
画面には休日に2人で出かけたいと表情されていた。
遅い時間ではあるが、熊谷も明日休みなのを知っていた為返信をしてみる事にした。
〈遅くなってごめんなさい。起きてたかな?〉
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時