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『え、』
Aが振り返った瞬間、腰と腕を掴まれると思い切り裏道に引っ張られる。気付けば、旅行の時を思い起こすような抱き留め方をされていた。
ひとつだけ違う所があるとすれば、今は裏道の腕の中にすっぽりと入っている事だ。
『へ、あの、うら、』
裏「そんな顔で帰すと思ってた?」
自分はそんなに変な顔をしていただろうか。
気持ちも落ち着いていつも通りだと思っていたのだが、今はそれどころじゃない。
自分の背中に裏道腕が回され、顔の横にはさらさらとした自分のではない髪が頬にあたる。心臓が爆発しそうな位に煩くて仕方がないし、緊張で身体は強張ってしまった。
『うら、みちさん、あの、離し』
裏「顔、見られたく無いんでしょ。これなら見えないから良いだろ。」
『そう言う意味じゃなくて…』
裏「俺は遠慮しないって言ったし、お前にはもっと素直になれって言ったよな。」
それはいつぞやの時に聞いた言葉だった。
『……は、い。』
裏「…だったら少しは頼れ。せめて愚痴くらい言えよ。」
『…でも、』
裏「でもじゃない。…俺は確かに情緒不安定だし、すぐヘコむし、いつも慰めてやれる訳でも無い。けど、聞いてやる事くらいは出来んだよ。」
『……。』
裏「今は深く聞かない。ただ、泣く程しんどい事があるんだろ。なら、我慢するなよ。…泣けなくなったら、終わりだぞ。」
つんと鼻の奥が痛む。視界がまた滲んでいく。口を一文字で結んでいたのに、歪んでしまう。
『ず、るい』
裏「そーかよ。」
ふっと裏道が笑ったような声が耳元から聞こえると、堰を切ったように涙が溢れてきた。
Aが裏道の服を掴んで泣き出すと、裏道はぽんぽんと背中を優しく叩き始めた。
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▪️2023.10.02.一部修正しました。
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時