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裏「っ、何。」



『…っ、みません!すぐ、すぐ終わるので!』

裏「…この手は何なの。」

『この、まま。なっ…っく、にも、見ないで』

小さい嗚咽が静かな部屋に響く。
裏道は、はぁ、とため息をつくとAの肩がびくりと跳ねる。ごそごそと音がしたかと思うと、俯いているAの視界にティッシュが置かれた。

裏「見てないから、使えば。」

恐る恐ると目線を上げると裏道はベランダ側向いたままだった。

『あっ…りがと、ござ、っ』

裏「無理して喋んなくて良いから。」

『……はっ、い。』

顔を少し上げて、ティッシュを手に取り目元を拭う。裏道はずっと黙ったまま背を向けている。その背中が逞しいな、なんて回らない頭で考えてしまう。
ぐすぐすとしながら涙が少し止まってきた時裏道がぽつりぽつりと話し始めた。


裏「………強制はしないけど。」

窓の外を見たまま裏道が話し始める。

裏「……痛みに慣れるような事、してるのか。」

その声だけでは表情が読み取れない。
言われた瞬間、以前の収録ブースでのやり取りを思い出して声が詰まる。
…この人は自分を心配してくれてるのだろうか。

『……似たような事、ですかね。』

裏「それってAさんが望んでやってんの?」

『…正直に言えば…違います……でも…』

裏「うん。」

『…何と言うか……ままならない、ですね。』

裏「…そう。」

また、静かな空気が流れた。

(上手く言えなかったな、答えにならなかったかな。…呆れられちゃったかな。)

手を伸ばせば届く距離にその背中はあるのに、縋ってしまえば今までの自分が無かった事になるような気がして伸ばせない。

きっと疲れているんだろう。この甘い考えも、「自分を大切にしろ」だなんてそんな言葉で揺れてしまう程自分は弱く無いと思っていたのに。

(もう涙も止まった。これ以上裏道さんを困らせたく無いから帰ろう。)

『裏道さん、ご迷惑をおかけしてすみません。私、帰ります。』

背を向けたままの裏道の方を向けずに、そのままソファーから立ちあがろうとした。

裏「分かった、なんて言うと思う?」

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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時

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