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その顔を見た裏道は少し面食らった顔をしたがすぐに、にやりと意地の悪い顔をしながら笑った。
裏「…なに、もしかして見惚れちゃったとか?」
『ーっ!ちがっ……く、ないデス』
Aがばっと顔の前に手をかざして顔を隠す。裏道はその姿をじっと見ると、何も言わず手に持っていた灰皿へ煙草を押し付けて火を消すと室内に入りベランダを閉める。
部屋に入ると立ちすくむAに近づくが、先程から雰囲気の違う裏道につい後ずさりしてしまう。自分の事を少しは男と見ているんだろうかと思うとふっと笑みが溢れた。
裏「別に取って食べる訳じゃないから。テーブルに灰皿置きたいだけ。」
『…あ、はい。』
Aが横にずれると裏道は灰皿を静かに置いた。裏道が醸しだす雰囲気に心臓が鳴り止まない。
(あれ、いつもどうやって話してたっけ…)
裏「けど、これは見逃せない。」
『え?』
裏道はAがかざしていた腕を軽く掴む。
裏「こんなアザを作ったまま放置するな。」
『いや、そんなに大した事ないですから…』
裏「怪我を甘く見るなよ。このアザだとちゃんと手当しないと後で長引くぞ。ちょっと待ってろ。」
そう言えば、裏道さんは体育大学出身だから怪我に詳しいのか。なんて頭に浮かぶが、自分ではそんなに酷いと思っていなかった。
裏道は洗面所から湿布の袋を取り出すとリビングに戻った。Aは裏道が掴んだ腕をぼんやりとしながら見ていた。その姿がいつもより頼りなくも見える。
裏「ほら、そこに座れ。」
『…失礼します。』
先程兎原が汚していったソファーは綺麗に掃除されていた。そんな事はつゆ知らず裏道の言われるがままAは腰かけた。
その横に腰掛けて裏道は手を伸ばす。
裏「ん、手、出して。」
『……はい。』
裏「…ちょっと腫れてんだろ。なんで放置してるんだよ。」
『あの、仕事だとよくぶつけたり挟んだりするので当たり前になってて、時間がたてば治るんじゃないかって…』
Aの細い手首を掴むと腫れている場所を確認しながら湿布を貼っていく。
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▪️2023.10.3 一部修正しました。
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時