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夢を見た。
あたたかい何かに包み込まれているような、不思議な夢。
優しい声に優しい手で私を撫でてくれる。
誰だか分からないけど、自然と裏道さんを思い出した。
裏道さん、と呼ぼうとしても上手く言葉が出てこない。
お願い。もう少しだけ、もう少しだけで良いから、そしたらまた頑張るから…側に居させて下さい。
そう、願った。
ーーーーーー
『……あれ、わたしいつ寝…た…』
ぼんやりとした頭がなかなか覚めてくれない。ころりと寝返りタオルケットに顔をうずめると、どこか知っている香りがした。
『…うらみちさんの香りがする…』
柔らかくて安心するいい香りだ。
それが何故このタオルケットからするのだろう?そもそも今日は買い物してから自宅に帰った記憶が無いような…
『……待って。』
むくりと身体を起こすと、知らない寝室だった。そうだ、今日は兎原くんに呼び出されて………
記憶が蘇ると同時に、勢いよくベッドから起き上がると頭痛がした。
『……しまった。…飲み過ぎてる…。』
ベッドから出て廊下に出ると、リビングの方へ向かったが部屋の明かりは消えていた。
(裏道さん起きてるかな…?)
恐る恐る覗くと部屋は綺麗に片付けられており、ソファーにも台所にも裏道の姿が見当たらない。
『…う、うらみち、さん?』
声をかけても返事がない。
辺りを見渡していると、かたり、と自分の背後から音が聞こえた。
音がした方に振り向くと、横を向きながら煙草をくわえてベランダに佇んでいる裏道が居た。
少しぼんやりとした目で夜空を仰いでいて、すっとした指で煙草を口元から外すとゆらりとした紫煙が風に乗る。
手元の灰皿にタバコの灰を落とす時に少し伏せたような瞳は長い睫毛が影を落とす。
その一連の流れがあまりにも綺麗で見惚れてしまった。
綺麗なだけではなく、そこはかとなく色気がありAの心臓は煩かった。
カラリとベランダの窓が開く音も聞こえない程に。
裏「…起きた?まだ寝ぼけてる?」
裏道は煙草を咥えながら、Aの前で手を振る。
『…!あっ、お、起きました…すみません。』
裏「本当だよ。疲れてたなら今日来なくたって良かったんだぞ。」
また肺に煙を入れて、ふうっと吐き出す。
その動作がいちいち様になっておりAは裏道から目を離す事が出来ない。
裏「…話聞いてる?」
ぼんやりとしたAに少し顔を近づけて聞き返すと、数回瞬きした後ぼっと顔を赤くした。
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時