貴女を知りたい ページ35
バタンと玄関のドアが閉まる音が響いた。
先程まで賑やかだったのが嘘のように静寂が戻ってくる。
裏「忙しない奴らだな…。」
熊谷の反応が気になる所ではあるが、まずはAを寝かせるのが先決だと寝室へゆっくりとした足取りで向かう。
裏「に、しても軽すぎないか…?」
自分が想像していた重さよりもAは軽々と腕の中におさまった。
寝室の前につくと片方の手を少しだけ離し、ドアノブを下げて室内へ入る。
そっとしゃがみ込んだ時にAの顔を覗き込む。
酒のせいか、ほんのりと赤く色づく頬や唇。自分の身体に密着してる細い身体は裏道よりも温かく柔らかくて無防備だ。
裏(…ちょっと待て。これ、マズいだろ。)
今更ながらAを異性と見てしまい触れている部分の熱や距離が近い事もありドギマギとしてしまう。離れた方が良いかと急いでベッドへ横にさせたが、それはそれでなんだかいけない事をしているような気持ちになってしまうのはある意味仕方がない。
裏(…っ!これはこれで心臓に悪いっ…!)
自分の理性と戦いつつ、その場から立ち去ろうとすると何かに引っ張られる感覚があった。後ろを向くといつの間にか服の裾を掴まれている。
裏「マジか…。」
立ちあがろうとした体制を、元の場所に座り直す。どうしたものかと掴まれた手を横目で見ると、Aの手にいくつか切り傷のような痕が見えた。
気になり見直すと、手の甲や手首辺りはアザも出来ていた。
顔をもう一度覗き込むと、メイクはしているがお世辞にも顔色が良いとはいえない色。目元にもうっすらと隈が出来ていた。
裏「…ここまで近づかないと見せてもらえないのかよ。」
疲れを隠した無防備な頬を撫でる。
その距離は今までより1番近い距離。
頬を撫でていた手は額に伸びて、前髪をさらりとかきあげる。
『……ら…みち…さ』
一瞬Aが起きたのかとびくりと身体を離したが、どうやら寝言だったらしい。
裏「…驚かせるなよ。……ここには俺だけしか居ないから安心して寝てろ。」
そう言って自分の服を握っていた手を解き、握り返す。そのままAの腕もベッドに乗せてタオルケットをかけて裏道は部屋を後にした。
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時