天の声のお姉さんは今日も走る2【うらみちお兄さん】 (ページ31)

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『…へっ？』

熊「花屋とアナウンサーって全然繋がりがないだろ。なんで転職したんだ？」

裏「…言いたくないなら無理するなよ。」

熊谷は裏道をちらりと見るとAにぐっと近づいて真っ直ぐ見つめる。

熊「俺は、Aを知りたい。色々な事を知りたいんだ。嫌じゃないなら教えてほしい。」

『熊谷さん…どうしたの？』

熊「…それからいい加減、"さん"付けやめろ。」

『…何で？』

熊「……何でもだ。」

兎原を掴んでいた裏道の手の力がするっと抜ける。頬をさすりながら２人を見ると普段見ない顔をした熊谷と裏道が視界に入った。

Aは真剣な目をした熊谷から目を逸せない。
そんなに仲良くなっていいものなのか正気悩む所だが、この頑固な視線からは逃れられなさそうだ。

『…じゃあ、熊谷…くん、かな？』

兎「はいはーい！じゃあ俺は兎原くんね！」

兎原が手を挙げてその場のぎこちない空気を壊すかのように言い出した。
それが功を奏したのか、Aは少し笑うとその場の空気は柔らかくなった。

『うん、良いよ。"兎原くん"』

兎原は予想だにしていなかったその微笑みの柔らかさに面食らってしまう。さすがの兎原でも顔が赤くなる。

兎「…その笑顔はずるくない？」

熊「…ちっ。」

誰にも聞こえないような小ささで舌打ちする熊谷。自分の方をもっと見てもらいたいのに、いつも上手くいかない。それが歯痒かった。

『さっきの私の事だけど、たいした話じゃ無いけどそれでも良ければ、かな。』

熊谷のぐい呑みへ酒瓶に残っていた酒を注ぐと、少し困ったような微笑みでAはどう？と首を傾げる。勿論だと言わんばかりにその酒を飲み干す熊谷だった。

『そうだなぁ、MHKに入るきっかけは今の上司かな。その人ね、私が大学の時の先輩なんだよ。』

兎「え！？俺と裏道さんみたいなもん！？」

『そうなんだよねー。私の上司「高見野源武(たかみのげんぶ)」は同じ心理学部の先輩。と言っても最初は関わり合いが無かったんだけどね。』

裏「心理学とTV局ってほとんど関係無いよな？」

『そうなんです。ただ、高見野は子供が好きなんですよ。個人的に幼児心理学も学んでいたみたいです。なんでも、「今の子供け番組は楽しみはあっても癒しがない。子供だって疲れる時位はある、だからそれを癒す番組を作りたい！」ってよく言ってました。』

懐かしむように目を細めながらゆっくり酒を飲むA。その所作はとても綺麗だった。