熊の独白 ページ18
最初に見て思ったのは、はち太に似ていると思った。
俺を見て怖がらないどころかキラキラとした笑顔で話す姿は、ヤンキー時代に見ていたはち太と重なった。
だからなのか、敬語を使われるよりはタメ語の方が気が楽だった。苗字で呼ぶよりも名前を呼んだのは、その方がしっくり来たってだけだ。
「なぁ、お前ってAちゃんの事狙ってんの?」
兎原から突拍子もない事を言われた。
自分ではそんな感情を一切抱いていないし、考えた事もなかった。
弟に似てるからと言っても意味は伝わらないだろうし別にそれで問題は無かった。
それからAはADとして一緒に仕事をする事が増えた。俺達への気遣いは勿論のこと、同じスタッフまで仕事がしやすいように朝早くから夜遅くまで職場に居るのをよく目にした。
本来のナレーターの仕事もあるんだろうからそこまでしなくて良いと言った事もあるが、
『早く仕事を覚えて少しでも皆さんの迷惑にならないようにしたいから。』
と、笑って言われては文句も言えない。
正直言って仕事が早い訳では無い。
けれど、汗だくになりながら走り回っては楽しそうにしている姿を見ているとなにかをしてやりたいと思う気持ちもあった。
今回の旅行で出来田さんに絡まれてる姿を見た時は俺達の前以外で何で酔ってるんだと詰め寄りたかったが、池照から自分を助ける為に代わってくれたと言われた。
それを知ったら怒れないだろ。
それに裏道さんから冷たくされたって聞いた時は限界だった。
あの人の事だ。どうせ俺が過保護だとか思ったんだろう。なのになんで笑っていられるんだよ、裏道さんを責めないでって言うんだよ。
頭を冷やしたくて、覗きに来ていた裏道さんを置いていった。
1時間くらい後だろうか。俺達の所に2人で戻って来た時、前より裏道さんがAに警戒心を解いてるのが分かったし、あいつも今までより自然な感じになって帰って来た。
それは良い。俺や兎原の前だと少しは自然だったけど、普段は強張ったような笑顔が気になっていたから今の方がずっと良い。
なのに、それを最初に向けられるのが俺じゃ無いのはほんの少しだけ、気に食わない。
なんて、俺はおかしいのか?
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▪️2023.9.14 加筆修正しました。
◾️2023.11.22タイトル修正しました。
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時