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Aは熊谷からもらった水を飲み干すと椅子から立ち上がった。
『ちょっとゴミ捨ててくるね。ついでに…お手洗い行ってくる。』
熊「…気をつけて行けよ。ここを真っ直ぐいけばトイレとゴミ箱あったからな。」
『うん、わかった。行ってくるね。』
Aの姿が見えなくなると、少し厳しい顔をしながらAとは逆方向の壁を見つめる。
熊「いつまでそうしてるつもりですか。」
びくっと肩を振るわせると、恐る恐る出てくる裏道。
裏「……いけてるお兄さんからAさんが具合悪くなったって聞いて来た。」
熊「何のために裏道さんにもお願いしたと思ってるんですか。Aはそんなに酒強く無いんですよ?」
裏「…そう、だよな。」
熊「池照が絡まれれば性格上助けるだろうから見張りも兼ねて言ったんですよ。それなのに何してたんですか。」
裏「悪い…。」
俯く裏道はいつもの気迫は無く、本当に落ち込んでいるようだった。
熊「というか、あいつに何言ったんですか。」
裏「…っ……俺が勝手に苛ついてただけでAさんは何も悪く無い。…悪かった。」
裏道はずっと俯いたまま、表情は窺えない。熊谷は納得いかない顔だがこれ以上何を言っても裏道からは返答は返ってこないだろう。
熊「……分かりました。もう聞きません。ただ、Aにはちゃんと説明してやってください。」
そう言って熊谷も席を立つとその場を後にした。裏道は気が抜けたようにストンと椅子に座ると、窓の外から眩しいくらいに月の光が差し込んできた。
ぼんやりと眺めていると奥からパタパタと歩いてくる音が響いた。
『熊谷さん、おまた…せ…』
そこには熊谷ではなく、外をぼんやりと眺めている裏道が座っていた。
(う…裏道さん?!何でここに居るのかな?!正直気まずい…)
月明かりに照らされた姿は雰囲気がいつもとは違うように見えた。裏道がふっと自分の方に身体を向けると、どうしようかとしあたふたしていたAと目があってしまった。
裏「…A、さん。」
『うっ、裏道さん。お疲れ様です、お邪魔してごめんなさい!』
踵を返そうとすると、裏道は慌ててAの手を取った。
裏「ちょっ…待って!」
『いえ、あの、ご迷惑になりますし…』
裏「そんな事無いから。」
『でも、その、困らせますから!』
裏道に背をむけたまま返事をするA。それがどうにももどかしい。けれど自分があんな事を言ってしまった手前、どう呼び止めて良いか分からない。
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年9月4日 13時