【ま.ふまふ】雪の世界に求めるもの。―完―

捌　／第二十九話　生きる資格も死ぬ資格もない世界。 ページ32

あの時、'その子'は私のところに来なかった。


私はずっと待ってた。


'その子'は絶対に来るって、そう信じてた。


あれ？なんで私'その子'って呼んでるの？


あれ？私、'その子'の名前、はっきりと思い出せないよ。
名前、なんだっけ。


顔も、姿も、髪形も、声も、何も思い出せない。
なんで？分からない。


ただ、「君が生きているだけでいいんだ。」その言葉だけしか思い出せない。


あの時あった出来事しか分からない。
なんで？


貴方は、なんていう名前なんですか？


ああ。結局私は'その子'のことしか考えていない。


あんなに会いたかったのに。


ずっと、待ってたのに。



あれ？ならなんで私は死んだんだろう。



本当にあんなことで死んでもよかったのかな？


「'その子'がただ、その日公園に来なかった。」


ただそれだけで。


生きていたら会えたかもしれないのに。


そんな疑問が頭をよぎる。


いや、まだ死んでない。
まだこの世界は死後の世界じゃないんだ。


死後の世界に通じる道。


まふは言ってた。


「君が”本当”に望むなら。いつだって出ることはできるよ。どっち側にも行くことはできる。」


って。ということは……


まだ引き返せる。


そう思った瞬間


「いや、引き返させない。」


今までずっと黙っていた死魔さんは急にそう言った。
驚いて死魔さんの顔を見た。


「今まで一度だってこの世界へきて心変わりしたやつなんていなかったよ。Aは死ぬときに本気で死にたいなんて思っていなかったんだ。
まだ少しの希望を持ってたんじゃないの？「誰かに死ぬのを止めてぽしい。」そう思ってたんじゃないの？」


そうだ。まだ私は死にたいだなんて思ってなかったかもしれない。


そうだ。私はまだ死ぬのをあきらめたくなかったのかもしれない。


もしかしたら死ぬ直前に'その子'が来て、私が死ぬのを止めてくれるかもしれない。


そんな夢のような、漫画のような展開を期待していたのかもしれない。


死魔さんはまた話し始めた。


「そんな覚悟でこの世界に来るな。そんな覚悟で生きるな。」


その言葉は深く胸に突き刺さった。


覚悟がないやつに、死ぬ資格はない。


覚悟がないやつに、生きる資格もない。



私には死ぬ資格も、生きる資格も、ない。



覚悟なんてない。



「生きたくない。 でも、生きたい。」



この感情の名前を誰か教えてほしい。

捌／第三十話　自ら死を選んだ人しか来ることができない世界。→←染／第二十八話　最後の世界―――死ぬ直前―

ラッキーアイテム

革ベルト

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す