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短冊 ページ42

「……Aさん」



Aさんはどんな想いで俺の私物をダンボールに詰めたんだろう。引っ越してから開ける事もないまま、部屋の隅に置いておいて……。



「他に何かないかな……」



俺が関係してる物はあの写真立て以外全部この中にあるのだろうか。部屋を見渡すと小さい笹が飾ってあった。短冊が1枚だけ括り付けられてる。


そうか、あの日は七夕だったもんな。昔からの習慣で毎年七夕には小さい笹買ってきて短冊括り付けるって去年言ってたっけ。


興味本位だった。Aさんはどんな願い事したんだろうって思って、短冊をひっくり返して見てみた。



「っ、」



狡いじゃん、こんなの…。ピンク色の短冊にはAさんの字でこう書いてあった。



《モトキ君が幸せになりますように》



別れた男の幸せ、普通願う?しかも七夕の願い事に書く程。所々文字が滲んでるのは、これ泣きながら書いたの?


俺今ちっとも幸せじゃないよ。だってAさんが俺の隣にいないんだもん。もう二度とAさんに会えないんだもん。Aさんにごめんねもありがとうも大好きももう言えないもん。


この短冊をこれ以上見てたら涙が止まらなくなりそうだったから部屋を移動した。来たのはAさんの寝室。ベッドの横にある机の上に1冊の本と色画用紙が置いてあった。あ、これ本じゃなくて日記か。


これを見れば、Aさんが何を思ってあの日、俺に別れを告げたのか分かるかな。他人の日記を見るなんて罪悪感があったけど、日記を開いた。中に何か挟んでいたみたいでそのページを開いてみた。



「何、これ……」



数枚の短冊が栞のように挟まっていた。全部ピンク色の短冊。全部、俺に関する願い事が書かれてた。



《モトキ君が笑っていてくれますように》
《モトキ君に素敵な出逢いがありますように》
《モトキ君に何も起こりませんように》
《早く私の事忘れてくれますように》



何でAさん自身の願いがないの。何で全部俺の事なの。何で…早く忘れて、なんて願うの。


視線を下に落とすとゴミ箱が視界に入った。1番上に短冊らしきピンク色の画用紙が半分に破られて捨てられている。そっと拾い上げて読んでみた。



《モトキ君に会いたい》



紛れもなく、それはAさん自身の願い事だった。破られていたけど間違いなくそう書かれてる。



「本当に、俺の事まだ好きでいてくれたんだね…っ」



Aさんも俺に会いたいって思ってくれてただけで嬉しいよ。

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Ria(プロフ) - やばいです…感動ものです……グスッ、泣いちゃいました…。素敵な作品をありがとうございます…!! (2020年3月22日 21時) (レス) id: 33e95337be (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 善処さん» ありがとうございます!めっちゃ嬉しいです!(*≧∀≦*) (2019年10月29日 10時) (レス) id: 6f454b9d63 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - wwwさん» やっぱりそう思いますよね…分かります。 (2019年10月29日 10時) (レス) id: 6f454b9d63 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - danchanさん» 三宅さんが手話ができると知ったので、これは出すしかないと思い、出させていただきました! (2019年10月29日 10時) (レス) id: 6f454b9d63 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ゆりりんさん» 作者も書いてて泣きそうになってました…(´;ω;`) (2019年10月29日 10時) (レス) id: 6f454b9d63 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年8月9日 0時

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