もしも生まれ変われるのなら、私は【Fischer’s】

天秤 ページ23

Aさんとお付き合いを始めて1週間が経った。あの日から直接会えていなくてLINEでの連絡しかできていないけれど。



「もっきゅんさぁ、最近凄い機嫌いいよね」
「何かいい事でもあったの？」
「へ？」



シルクハウスでの撮影を終えて各々スマホを弄ったりスマブラやりだしたりした頃。そういえば、と思い付いたようにンダホが口にした。他意なんてなく、本当に思った事をそのまま言葉にしたんだろう。ぺけたんもそう感じてたのか同調してきた。


気が付けば今ここにいるシルク、ンダホ、マサイ、ぺけたんの視線が俺に集中してた。一斉に皆に見られて思わずたじろぐ。まだ、メンバーの皆にはAさんの事は言えていない。


少し……いやかなり怖いんだ。恋人ができたと言ったらよかったなって言ってくれるとは思う。俺達はYouTuberである以前に人間だ。いくら数百万人のチャンネル登録者数がいるYouTuberグループだからって恋をするなと言う方がどうかと思うし、それに恋愛禁止という訳でもないから表沙汰にせずひっそりと付き合う事については何も言わない筈。


でも俺の恋人は耳が聞こえない人。もしもメンバーの皆に受け入れてもらえなかったら？俺はどうすればいい？Aさんと別れたくないし、Fischer'sとしてこれからも活動していきたい。でもそうだな……もし、どちらかを選択しなければならないなら、俺は────



「そうかなぁ。俺はいつも通りだよ」



────Aさんを選ぶと思う。AさんとFischer'sを天秤になんてかけたくないけどね。こんなに守りたい、幸せにしたいって思える人、多分もうこの先の人生に現れないって思うんだ。


まあ皆は優しいから、びっくりはするかもしれないけど否定はしないと思う。全部俺の想像だけど、多分そう。何年こいつらと一緒にいると思ってるの。


けどいつか言わないといけないのは事実。やっぱりAさんを直接会わせた方がいい。Aさんにもメンバーの事を紹介したいし。となると全員が集まる時がいいな。全員が集まるなんて下手したら半年後とかになりそうだけど、その時はその時だ。


それまではこの関係は俺とAさんだけの秘密にしよう。

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