ＮＩＮＲＡＮ－４－ (ページ13)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:13,546 hit

04-43・桔梗ページ13

・
・
・

「「……八兵衛……」」

大野と相葉の声が重なる頃、二宮は
1人、懐かしい想いでの中へと落ちて
いた。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

『これが、御身をお守りする事になる
　“山田八兵衛”でございます。』

『よろしゅう。』

『うむ。よろしくたのむ。』

ちらりと上げた面、上座に座るその
姫と目が合った瞬間、カズの胸は
高鳴った。
射るような強い目。

この方が若様に輿入れする方……。

今のお上に後継ぎはお一人。
何人かいらっしゃったが、次々と
お亡くなりになり、最後に残った
のが、今の“若”さまである。

『山田八兵衛とは申せど、女子で
　あったか。』

そう言って“桔梗”と言う名の
彼女は軽やかに笑った。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「そなたはちべえと言うのか！！」

幼い少女の声が二宮を今生へと引き
戻した。

さりげなく、落ちたゲームを拾う。

「よし！そなたにきめた！
　きょうからそなたがわたしの
　“はちべえ”じゃ！」

セラフィーがビシッと二宮を指さし
ながら宣言する。
それを冷めた目で見ながら、

「人を指差しちゃいけねぇって教わら
　なかったのか？
　それに、何度も断ってるだろうが？」

「いやじゃ！決めたのじゃ！」

二宮の言葉をまるっと無視した
彼女はなおも言う。

「……帰れ。」

底冷えのする声を大野が放った。
護衛人の背中に冷や汗が吹き出る。
威圧を込めたその声に、慌てたのは
彼女の隣に腰かけていた、東洋人の
女性だった。

「も、申し訳ありません！」

そう言って深々と頭を下げる。
彼女には大野の背後に鬼が見えて
いた。

「セラフィー様、一旦ホテルに戻り
　ましょう！」

そう言って少女を説得する。
威圧を込めた大野の言葉に固まって
いた少女がぎこちなく頷いた。

「本当に申し訳ありませんでした。」

ほぼ90度のお辞儀を扉の前ですると、
あわただしく一行は事務所を後にし
その扉が閉じると同時に、二宮はその
身をソファーに沈ませた。

「……でぇじょうぶか？」

大野の言葉にぼんやりと天井を見つめ
たままの二宮はゆっくりと目を閉じる。

大丈夫……じゃねぇな……。

蘇ってしまった面影が、二宮の
胸を締め付けていた。