ハロウィンの夜に☆３ (ページ17)

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暖かな温もりの中で大野は目覚めた。

ふわふわと漂う水の中。
胎児のように体を丸める大野の姿。

『あえ？ここ、どこだ？』

『ここは卵の中だ。』

大野の疑問に答える声が聞こえた。

『卵？』

『智、お前はどこまで覚えている？』

そう言う声に大野は自分の記憶を辿り始めた。

ようやくもぎ取った休日にひっさしぶりに釣りへ
出掛けた。
船に乗り、沖へ。

空は快晴。
絶好の釣り日より。

釣糸を垂らし、何も考えずぼーっと海を眺める。
全てをリセットできる。
そんな時間を大野は必要としていた。
それは別に絵でもフィギュアでもよかったのだが、
閉塞した空間ではなく、広く自由な空間で息がしたかった。

馴染みの船長に連絡し、船に乗り、潮風を受ける。

これこれこれ！

大野はにんまり笑った。

「やばいな……。」

船長の言葉に海原へ視線を向けると黒い雲が彼方に見えた。
帰港すると言う船長の言葉に少し残念に思いながらも、
自然相手だからしょうがないと釣糸をあげる。

それからすぐだった。
たちまち空は曇天に覆われ雨が降り始めた。
慌てて操舵室へ入ると、風が吹き、波が荒れ始める。

そして突然、甲高い女の声が辺りに響いた。

最初は気のせいかと思っていたが、どうやらその声は
船長にも聞こえるらしい。

女の声は嵐と共に徐々に大きくなり、やがてはっきりと
歌のようなものが聞こえ始めた。
船長と大野の背中を冷たい汗がつーっと走った。