ハロウィンの夜に (ページ35)

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ボールを見るとうずうずする事が増えた。
逃げる物は追いかけたくなる。
生肉でさえ、美味しそうに見え、猫には
威嚇される。
その反対に犬科の動物には異常にすかれ、
今まで犬だけしか聞こえなかった声が、
他の動物の声まで聞こえるようになって
しまった。

運動能力は上がり、ダンスの振りうつし
では、へばることもなく、何よりすぐ
覚えられるようになった。

魔女からは薬と香水が届き、検診前、その
薬を試しに飲んでみると、動物の声がぴたっと
やみ、聴力も以前に戻った。

嬉しくて毎日飲んではだめかとメールすると、
狼男が本来の自分だから、無理に人間にする
薬を多用すると、歪みができ、反動で薬がき
かなくなってしまうと言われた。

これから先、俺には検診が付きまとう。
それなのに、薬がきかなくなってしまったら、
狼男だと、人間じゃないんだと、ばれてしまう。
それだけは避けたかった。

だって、嵐でいたいから……
あそこが俺の居場所だから……。

ある日の夜。
不意に空を見上げてぎょっとした。
そこには丸いお月さま。

身体中の血がざわざわと騒ぎだし、いても
たってもいられない感覚になる。

そう。トウボエしたくなったのだ。

隣にいたニノの存在でなんとかこらえると、
今度は鼻と頭、お尻がむずむずする。

慌てて鞄をあさり、検診用だった薬を開けて
飲んだ。

まだ、あと一本、仕事が残っている。

後で魔女に連絡することにして、その日は
薬でなんとか凌いだ。
これからは満月の日を必ずチェックしよう。

そうして退院から２ヶ月。
俺はついにりっぱな狼男になった。
満月の夜には月をみなくても血がさわぎ、
月を見てしまえば、全身狼に変身してしまう。

初めて変身した夜。

身体中の細胞が熱を持ち、骨が軋み、
思わず大きく叫んでいた。

視界が人間とは明らかに代わり、鼻と
耳で集める情報量に圧倒された。

そこは近所のビルの影。
仕事終わりの帰宅途中、リーダーからの
電話。

『あーばちゃん。今どこ？外？上見てみ。』

見上げた空にキレイで大きい満月。

沸騰するような体の熱に、慌てて電話を切り
路地へ逃げ込んだ。
逃げ込んで正解だった。
こぼれる涙。
もう、俺は人間じゃ……ないんだね？