☆ ページ10
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「こんなにパックリ割れちゃったら痛くてたまんないよなって思ったの」
少し血も滲んでいる。Aは肌や唇はとても弱いけど、意味が分からないくらい痛みに強い。これくらいなら耐えられるのだろうけど、決して快適ではない。
「Aはいつでも可愛いよ。どんな姿でもめちゃくちゃ可愛い」
鏡の中のAも実物のAも、耳や頬がブワッと色づく。
「いひっ、赤っ」
『ひ、照が……！』
可愛いなんて言うから。心の声が鮮明に聞こえる。
「俺が何？」
それを言わせようとするのだから俺もこの関係に随分慣れて、意地悪になったなぁと感心する。
痛々しい唇をそっと親指で撫でる。いつも色っぽくぽってりとしてぷるんと潤った唇は乾燥でザラっとしていた。むけた皮さえも乾燥している。
「まぁいいけどね。付き合って2年経って、どうすれば痛くないチューができるか考えてるし」
触れるだけのキスを唇に落とす。Aは不満げに俺を睨むけど怖くない。
「これなら痛くないでしょ？」
『痛くない、です……』
「じゃあこれは？」
チュッ、チュッ、と何度も軽く触れる。深く味わうようなキスはできなくても、軽くじゃれ合うような愛を伝えるためのキスならきっと痛くない。
俺にとってキスという行為は義務じゃない。したい時にする。それが毎日なら幸せだよなぁ、と考えている。
「どう？」
『痛くない、けど……』
「けど？」
唇を離せばAは照れて俯く。
『……もっと、ほしくなった』
完全ノックアウト。理性を保ってバードキスに終始していたのに、求められたら脆いそれがいとも簡単に崩壊してしまう。
「本当さぁ……」
ずるい。本当にずるくて愛おしい。Aがどんなに綺麗でありたい、可愛くありたい、と願っていても、いつでもどんな姿でも綺麗で可愛い。
「そういうとこだよ。俺が我慢できなくなるのは」
耐えなくてもいい、我慢しないで、と言いたいのか？
『今日午前中ゆとりある』
「チューしたくなかったんじゃないの？」
『本当はできないの嫌だ』
愛おしすぎて胸が苦しい。何年経っても俺を虜にして離さない。チラリとスマホを確認する。ドラッグストアは開店した時間帯だ。
「ちょっと待ってて。リップとゴム買ってくる」
『……早くね？』
「うん」
何度目かのキスをして、俺は急いで家を出た。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年11月29日 19時
