寝顔 ページ8
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折り畳み式の椅子の背もたれに寄りかかり、衣装の上から足まで隠れるロング丈のダウンジャケットを羽織り、膝にはボアブランケットをかけて、口元にはマスクが着けられている。
アイメイクが落ちないようにサングラスをかけ、その上からアイマスクを被せる。首にはネックピローが巻かれる。Aは今、仮眠中だ。
「あかん、全然姉さんの寝顔撮れへんやん」
まあええか、と丈はスマホを構え、黒い塊を写真に収めた。
「は？」
「ほんで照は怖いわ！」
俺先輩やぞ、と身震いする。芸歴は丈が先輩だけど実生活や役の中では俺が先輩だし、女の子の寝顔を許可なく撮るのは先輩後輩関係なくおかしい。
「先輩だけど彼女の寝顔撮られそうになって怒らない彼氏がいる？」
「……俺アイドルやから人生で1回も恋愛してへんのよ。分からへん」
「いひっ、無理があるだろ」
真正面からは分からないけれど、Aの耳には耳栓も着けられている。だから俺達の声は一切聞こえていない。
「というか、俺が見れないのに丈が見れるのは許されないからね？」
「は？ 照って姉さんの寝顔見たことないん？」
丈が目を丸くする。見たことはある。ただ異常なほどに少ない。
「Aって俺より寝るの遅いのに起きるのは早いの。だからまぁ、そんなに見れない……」
仮に家でお昼寝をしていたとしても、アイマスクとマスクは必携アイテムでことごとく寝顔をブロックされる。
無防備でも気配を察知するようで、Aより早く目覚めた時に隠し撮りしようとすると絶対に目を覚ます。ピントを合わせているうちにゆっくりと瞼が開いて、簡単には撮られないよ、とニヤリとされて失敗。この繰り返しだ。
「ちょっ、凹むなって」
Aの写真フォルダには俺の寝顔が何枚も保存されているというのに。撮られていることさえ気づけないくらい熟睡だというのに。寝顔1つで一喜一憂する自分はまだまだ子供だ。
そんなことを考えていたらピピピッ、とアラームが鳴った。
『んんっ……』
妖艶のかけらもない唸り声を出しながら塊が起きる。耳栓を取ってジャケットのポケットから耳栓のケースを取り出し、アイマスクとサングラスを取る。グッと背伸びをしてマスク越しにあくびをこぼした。
『よく寝たぁ……』
「A、おはよう」
『照も丈くんもおはよぉ……』
……可愛すぎる。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年11月29日 19時
