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下にお父さんが来ているというからやはり挨拶に行こうとしたけれど、照くんはAのそばにいてほしい、というお母さんのお願いを聞けば離れることはできない。
母の愛情にほっこりし、同時にAが心配でもあって。早足でリビングに戻る。Aは俺の足音にも気づかないくらい深く眠っていた。
「A……」
時折眉間を皺を寄せ、苦しそうにウッ……、と唸りもする。
「頑張りすぎだよ」
全身から溢れる熱気。じんわり額を濡らす玉のような汗をタオルで拭うと、Aは少し安心したように皺を弛めた。俺がこんなに近くにいても起きない。
「年末年始はゆっくり休もうね?」
あれだけ寝顔を見たいと願い続けてきたけれど、体調を崩してもらわないと見られないなら見れなくてもいい。俺は太陽のように明るく、元気で活発なAが好きだから。
一旦寝室に向かう。掛け布団を捲ってリビングに戻り、Aを抱きかかえてから再び寝室へ向かう。場所を変えてもなお目覚めないAは、俺にお姫様抱っこされてここまで移動したとは思わないはずだ。
起きないのを確認し、俺はシャワーを浴びようと部屋着を持って浴室へ向かった。
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翌朝、目覚ましが鳴る。ゆっくり目を開くとAも起きていてボーッとウォークインクローゼットのドアを見つめていた。
「おはよう」
『おはよう……』
額の熱冷ましシートは乾燥して薄くなっている。発熱からの顔の火照りは随分マシになったように見えるけれど、風邪の影響で声はガサガサに潰れて鼻にかかっている。
「大丈夫? しんどくない?」
『まだちょっと気怠い……』
「そっか」
今日もゆっくり眠って薬を飲み、栄養のある食事をして過ごす必要がありそうだ。
「今日も秒で終わらせて帰るね?」
『いや、でも明日……』
「俺は大丈夫だから」
Aの言わんとしていることは分かっていた。明日は大晦日で生配信ライブが行われる。万が一、風邪が移って俺が出演できなくなったら……、と考えているのだろう。
「心配くらいさせてよ」
でも今は自分の心配をしてほしい。1年頑張って、頑張りすぎて最後の最後にダウンした自分を労わってほしい。
「ね? たまには俺に甘えて?」
『……甘えてって言われても、甘えられない』
Aは恥ずかしそうに俺の肩に凭れた。そういうとこ、本当に狡い。
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2023年11月29日 19時