苦しい時こそ ページ36
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“帰ってこないで”
その一言が綴られたLINEに胸がザワついた。純粋にどうしてそこまで言われなければならない？ ひょっとして言われるほどの悪い行いをしてAを怒らせてしまっていた？
頭の中で湧き上がる疑問を払拭させなければこの後の生配信ライブのリハーサルに集中できそうにない。俺はタピオカミルクティーを飲みながらチョコレートを齧り、休憩中に電話をかける。
でも一向に出る気配がない。2回、3回と呼び出してみても無機質なコール音が響くだけだ。
“おかげになっている電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません”
5回目のアタックの後、音声ガイダンスはとうとうそんなことを言うようになった。Aが電源を切った証拠だ。
「俺が何をしたって言うんだ……」
まさか嫌われた？ 大掃除の時、ゲーム部屋から発見された小西さんとの思い出を振り返っていたら想いが再燃した。だから俺を排除する。その一環としてまさか……
「照？ 眉間に皺寄ってるよ？」
悪い方に悪い方にツボにハマろうとしていた俺を救ったのは舘さんだった。
「どうしたの？」
「Aが……」
「お嬢？」
「Aが、電話出てくれない……」
思っていた以上に動揺している。チョコレートの甘さもタピオカの弾力も感じられない、味わえないくらいには。
「……なるほどねえ」
苦笑いをした舘さんは少し考えた。
「前もこんなことあったよね」
何か思い出したように最近だと1ヶ月半前くらいだったかな、と呟く。
「1ヶ月半前？」
「あの時のお嬢、様子がおかしかったでしょ？」
必死に捻り出して思い出した。
俺なのかグループなのか定かではないけれど、とにかくAと共演することを良しとしないアンチの投稿がSNSに流れていた。それをAがたまたま目にしてしまった。
「照が言うにはお嬢はピンチの時ほど頼れなくて塞ぎ込むみたいだし、今日も何かあったんじゃないの？」
ハッとした。舘さんはいつも俺にヒントを与えてくれる。
「そうかもしれない……」
一瞬でも疑った自分をぶん殴りたい。俺は何年Aのそばにいるのか、Aの顕著な変化に誰よりも敏感でなければいけないはずじゃないか。
「これからリハだし、一旦切り替えよう？ 終わってから色々考えようよ」
心配ながらも俺はうん、と頷いた。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年11月29日 19時
