☆ ページ35
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「どうしてそんなの持ってるの？」
私自身完全に忘れていた。でも忘れていた、で通用するはずがない。
「Aって元彼との思い出は残しとく派の人なの……？」
『そういうわけじゃない……けど説得力ないか……』
別れた時に彼との思い出は捨てているし、そもそも週刊誌対策のためにお揃いはしても家の中でしか身につけていない。アイドルであり恋愛沙汰に対して厳しい目を向けられるはずの照の方が警戒心が薄い。
「ないよ、全然……」
ダンボールの中にあった洋服とアクセサリーはどうしても捨てられなかったのだろう。最後は呆気なく、酷く終わってしまった。
「このA、めちゃくちゃ可愛いし……」
でも小さい時から芸能界で過ごし、人から見られる仕事に身を投じてきて恋愛さえまともにできなかった私にとって彼の存在は青春そのものだった。
彼と過ごした時間、彼がくれた笑顔は自分でも知らなかった自分を教えてくれた。
「小西さんが好きって気持ちが顔に出まくってる」
『……それは、否定できない』
身体に残った手術跡を頑張った証、恥じる必要のない美しいものとして初めて扱ってくれたのも彼だった。ひた隠しにして生きてきた5年間、その全てを彼は受け入れてくれた。
“仕事ではそういうわけにいかない。でもプライベートで隠す必要はないよ。だって俺、Aの傷跡まで愛おしいから”
「あー、めっちゃ悔しい。本当悔しいな」
照は後ろからギュッと抱き着いた。
「俺以外にもAを強く愛してる男がいて、Aが1度でも好きになって愛を注いでたと思うと嫉妬が止まんなくなる。俺の方が小西さんよりも先に好きになったのに……」
不機嫌ながらも甘えたような声が耳をくすぐった。
『でも今は照だけだよ？』
「そうだけど、俺は初めてもほしかった」
『強欲だ』
「強欲にもなっちゃうから」
もう見ないで、と照は手からアルバムを奪い、そのまま元あったダンボールの中に戻した。
「大掃除は一旦休憩ね？ とりあえず俺の機嫌を戻してください」
過去は変えられない。1度でも小西さんを愛し、付き合っていた事実は残っている。でもこれからの未来はいくらでも変えられる。
照はシングルベッドに腰をかける。トントン、と太ももを叩いて座るように促す。大掃除、今日中に終わるかな。私は向き合って照の太ももに跨った。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年11月29日 19時
