薬指の束縛 ページ30
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ふと家のカレンダーを見て思い出す。そういえばあと1ヶ月で記念日だな、と。
12年という長い長い年月は高校に進学したての俺達を28歳のいい大人に変えた。想いが通じた日。それはAが自らの気持ちに気づいた日でもある。もし気づいてくれなかったら、Aの気持ちがトラウマに支配されていたとしたら。俺はどん底に落ちていただろう。そもそも受け入れてくれるとも思っていなかった。
3点差の9回裏2アウト満塁の場面でサヨナラ逆転満塁ホームランが出た時くらいの奇跡だと思う。
「2年か……」
意見が合わず、険悪になりかけたこともあった。その度に夜な夜な話し合い、時には寝不足になって今日は早く寝よう、と苦笑いを零したこともある。
「2年？ 何が2年なの？」
俺の色気ない日常を明るく照らしてくれる人。絶対に隣にいてほしかった人。俺の太陽であり、一生そばにいてほしい人。
「おーい、照？」
「あ？ ふっかか」
2年記念日は何をしようか。今年はドラマ撮影だから確実に一緒にいられる。考えを巡らせているとふっかの手が目の前に現れて現実に引き戻された。
「どうしたの？」
「いや、こっちが聞きてえのよ」
雑誌の撮影でふっかとコンビを組む。その時々でメンバーとの関わりに濃い薄いがあるけれど、何やかんや最後はふっかが安定だ。
「何かあったの？」
「ん？ もうすぐAと付き合って2年だなぁって考えてた」
「お前口を開けばAしか出て来ないよな」
「だって好きなんだもん」
何があっても嫌いにならない。だからこそ言い合いさえも絆を深めるために必要だと思う。
「好きじゃなかったら2年も続かないよ」
「そりゃそうなんだけどねぇ」
妬けるなぁ、とふっかは厚みのある唇をアヒル口にした。ふはっ、と吹き出せば何笑ってんだ、とひねくれる。
「俺ってさぁ、学年は違うけど一応照とAのいつメンだったわけじゃん？」
「うん」
「しかも照は男モテが凄かったけど、女の子モテは俺だったろ？」
「うん。ウザかったよね」
「おぉい、言い過ぎだろーが」
「いひひっ」
ふっかは無自覚で嫉妬していることが多い。俺は嫉妬しませんけど、なんて涼しい顔をしている割に発言には独占欲がある。それが嫉妬だろ、と思うのだけど本人は頑なに否定する。
だからあからさまなヤキモチは新鮮だった。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年11月29日 19時
