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傷跡と対峙したのは年が明けて1ヶ月半経った頃だった。Aの体には左脚だけでなく、左の上腕にもメスが入っていた。思っていた以上に大きくて幅がある。
鎖骨にも薄ら切った跡があった。これは高校生の時に偶然見えてしまったから知っていた。でもAには決して言えなかった。当時怪我からそれほど時間が経っていなかったから、切り開いた跡が今よりずっと生々しく、痛々しかった。
『照は傷跡ごと愛してくれる感じがする』
転落事故での怪我は公にされていた脚だけではない。実際は首から下の左半身に及んでいたことを思い知らされ、苦しくなった。
『私のコンプレックスごと愛でてるなぁって思うの』
俺の腕の中でAはくるりと寝返りを打った。
『気にならないわけじゃないよ？ 目立たないだけで一生残り続けるし、これ以上綺麗にならないと思う』
まっすぐに見据える瞳。間接照明に照らされて輝いている。
『でも照がこういう体でも愛してくれるから、あの時手術を頑張ったことを誇りに思えるようになったよ』
付き合って初めて体を重ねた日、俺はAの体の一部になった傷跡を間近で見た。
「……Aが嫌なら俺が愛せばいいと思ってたの」
鎖骨の傷は見違えるほどに薄くなり、上腕や太もも、ふくらはぎの大きな傷跡も予想していたよりも薄かった。ただAの言う通り一生残り続けるのだろうな、と感じた。
「こんなに細い体で痛いのに耐えてすごいんだよ、Aは。俺だったら無理。絶対耐えらんない」
『意外といけるもんだよ。痛み止め飲んだら』
「時間が経ったらまた痛くなるじゃん。使用限度だってあるし……」
怪我から復帰し、ようやく体を動かせるようになったけれど思うように動かなくて泣いていたことを知っている。常に肌を隠し、夏でもジップパーカーが手放せないしプライベートでミニ丈を履いている所を見たことがない。
「でも良かった。Aが少しでも自信を取り戻してくれたなら」
傷跡の呪縛。それは常にAに付き纏う。もし囚われたらその度に俺が助ける。
『本当にありがとう』
Aは俺の顔を両手で包み、顔をグッと近づけて鼻と鼻をくっつけた。タコ口にすれば簡単にキスができてしまって、照れながらもまた下半身が元気になっていく。
『照ー？ 太ももに当たってるよ？』
「分かるならもう1回やろ？」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年11月29日 19時
