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自分が憧れの中嶋監督と同等だなんて烏滸がましいにも程がある。でも丈くんに分かりやすい例えを考えたら中嶋監督しか出てこなかった。
「あの、めっちゃ、幸せです……」
道枝くんは現実を受け入れたようで、しみじみと噛み締めるようにそう言った。
「なにわ男子の道枝駿佑と申します、あの、Aさんとずっと話したいと思ってました……！」
「こいつAちゃんのアクスタ持ち歩いてるんですよ。ファンクラブにも入ってんのやったかな、結構ガチ勢やねん」
「ちょっ、丈くん……！」
見る見るうちに顔を赤く染める。どうやら図星のようだ。
「何で言うねん！ もう……」
ファンクラブに入っているとは驚きだ。普段自分の意見なんかはInstagramを中心に投稿しているけれど、ブログは基本ファンクラブ限定だ。プライベートなことから仕事まで、ファンとの繋がりを大切に綴るブログを道枝くんにも読まれている。
「1番目の姉がファンなんですよ、藤井さんの。藤井さんがモデルやってらっしゃった時に雑誌読んでて、ずーっとこういう女性になりたいって言ってて。やから俺、物心ついた時から藤井さんのある生活を送ってたんです」
お姉さん経由でファンになるパターンがあるのか。私は謎に感心していた。
「5年くらい前になるけど藤井さんって本出してたやないですか。俺それも読んでます」
『え、本気？』
「本気です！」
道枝くんが身を乗り出す。私は思わずのけぞった。
「怪我のせいで今までのようにダンスもアクロバットもできないってお医者さんに言われた。それでも私は諦めたくなかった。自分の好きな物を奪われたままでたまるか。怪我ごときに人生壊されたままでいられるもんか、って言葉、印象に残ったんです」
しっかり読まれている。急に恥ずかしくなってきた。
私には5年前に出版した拙書がある。子役時代から数えて芸歴20周年の時に綴ったフォトブックで、その中にこれまでの芸能生活を振り返ったエッセイのような文章がある。確かそこに書いた。
「藤井さんの生き方がかっこいい思ったし、美人で可愛くて苦労知らなさそうな人がめっちゃしんどい思いをしてきたのを知って、俺も頑張らなあかん、へばってる暇ないってケツ叩かれた感じで」
頑張れない時のバイブルなんです、と道枝くんは照れくさそうに頭をかいた。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年11月29日 19時
