今は俺だけ ページ20
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「ただいまー」
今日はAがオフで俺が仕事だった。もはや我が家と化しているAの家に帰り、いつものように挨拶をした。おかえり、と返ってくるはずが待てど暮らせど返ってこない。
水が流れる音も聞こえないから洗面所や浴室にもいない。寂しいなぁ、なんて思いながらリビングのドアを開けると、Aが返事をしなかった理由が分かった。
「A、……え？」
『あ、おかえりー』
Aの腕の中ですやすや眠る赤ちゃん。服装からして女の子だ。
「待って、その子誰？」
『後で話すから声のボリューム落として？』
やっと寝かしつけたんだから、とAはひそひそ声で促した。袖から見え隠れする腕や脚がやけに細い。
「ごめん……」
少し怒った声に萎縮して思わず謝る。Aはゆっくりゆっくり、カーペットに敷かれた赤ちゃん用の布団の上に女の子を寝かせた。
『よしっ』
ふう、と大きく息を吐いたAは大仕事を終えたかのような達成感に満ち溢れていた。
『この布団、兄が昔使ってたんだって』
「マジか」
小さな体に大きなエネルギーを詰め込んでいる。無垢な寝顔は純粋で可愛らしい。
『半日この子と過ごしたけど真剣に子育て頑張ってるお父さんお母さんは本当凄いよ』
筋肉痛になりそう、とAは赤ちゃんの寝顔を食い入るように、愛おしそうに見つめた。Aでも筋肉痛になりそうなことがあるんだ。後でリカバリーのためのマッサージをしてあげなきゃ、と考えが及んで忘れていた。
「そういえば誰の子なの？」
『あ、忘れてた。アツキの娘だよ。姪っ子』
アツキとはAの4歳年上のお兄さんだ。俺達が付き合い始める直前に結婚し、1ヶ月以上前に第1子が生まれた。
春には妹ちゃんにも息子くんが生まれ、今年の藤井家は新しい命の誕生に沸いているようだ。
『名前、レンだって』
「レン？ 目黒？」
『字は同じだけど目黒くんとは関係ないよ？』
もし我が子が女の子なら“蓮”という名前を授けたい。花が好きだという兄の妻の希望だったという。泥水という決して綺麗ではない、過酷な状況で決して腐らず美しい花を咲かせる蓮のように、清らかな心を持ち続ける子に育ってほしい。
『同じ黒でもSixTONESの北斗が好きだし、私の結婚相手にもSixTONES求めてるから』
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年11月29日 19時
