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アクセルを踏むAは寂しそうだった。高速に乗って加速度を上げる。何も言えなかった。
『でも隙ばっかりの照を見捨てたくないの。活動自粛中の身で1番気を付けなきゃいけない時期に女と2人きりになっても、未成年者を見抜けなくてラブなホテルで飲酒しても、見捨てられない』
不思議だよねー、と感情のない声が車内に響く。ずっとAが好きだから分かる。
Aは今感情を押し殺している。堰を切ったように溢れだしそうな感情を一生懸命制御している。そして俺はいつだって俺の味方でいてくれるAを悲しませ、失望させてしまった。
『自分は一途だとか言う割に遊んでるし、まあ、男の子にはそういう時期がどっかであるんだと思うけどね？』
1つひとつの言葉が槍のように刺さる。
『あくまでも私にはだけど、一途だとは思えないかな』
「……」
固く大きな石で頭を殴られたようだった。じわじわと目の奥が熱くなる。俺は長年の片想いを片想いの相手に否定された。そう思わせるほどの行動を取ったのは自分だけど、Aに想いを打ち明けられない臆病者だけど、それだけは否定されたくなかった。
唇を噛んで黙らなければ泣いてしまいそうだった。車内は深い闇に追いやられたかのようにしんと静まり返る。いつも美味しいはずのココアもチョコレートも、今はただの砂糖のかたまりにしか感じられない。
高速道路を降りて国道を走る。無言のままたどり着いたのはまだ少し風が冷たい海岸だった。駐車場に車を停め、とっくに冷めきったココアや玄米茶、申し訳程度のレジャーシートを持って砂浜へ歩く。
少し冷えた夜風に当たりながらAと俺は砂の上にレジャーシートを敷き、2人で腰掛けた。思ったよりもシートが小さく、近づかなければ服が汚れる。腰を抱けそうな距離にAがいる。体育座りで膝を抱き、静かに夜空を見上げる姿。横顔まで凛として美しい。
「……俺さ、さっき一途じゃないって言われたけどさ、本当に一途だと思ってる」
『ん？ うん』
「だから結構傷ついた」
いや、かなり傷ついている。
「ああいう記事撮られて、説得力も何もないけど」
『そこまで言うなら自信があるんだ？』
「……だって、10年以上同じ人が好きで諦められないんだよ？」
今はまだ伝えられないけど、名前を出さなければこの想いを打ち明けたい。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年11月29日 19時
