Beautiful Moon 2nd (ページ19)

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その後Aは何人ものキャストと挨拶を交わしていた。写真を撮ったり分け隔てなく会話をしたりするAは誰からも慕われていた。中には共演歴はないけれど観劇前後の挨拶を通して仲良くなったという出演者もいる。Aの人懐っこさに改めて驚かされた。

知り合いが多いから、とカンパニーに差し入れもして皆からありがとう、と感謝されている。一通り挨拶を済ませたのか、Aは俺とゆんさんの元へ帰ってきた。

『そろそろ帰りますか』

「そっかそっか、2人とも気をつけてね？」

『用心棒と一緒に気をつけて帰ります』

「用心棒！」

クスクス笑われて恥ずかしい。しかも週刊誌対策のために劇場を出てからは別々で帰るつもりだ。用心棒でありながら用心棒になりきれない。

「ちょっと待った！」

『げっ……』

ゆんさんを見送ってさぁ帰ろう。関係者用出入口に向けて歩いていた時だ。1人の男性が追いかけてきた。Aは振り返り、あからさまに嫌そうな顔をする。

「俺に挨拶は！？」

『最悪。小西さんから逃げるつもりだったのに……』

あ、これは本気じゃない。

「Aが来るの知らなかったからビックリしたよ。ありがとう」

『私に向かってぶんぶん手を振りすぎです』

「でも満面の笑みで返してくれたの知ってるからね？」

Aの人生に欠かせない存在であり、Aに片想いしていた俺が長年苦しめられてきた相手。この作品の中に名を連ねているのは知っていた。本当はできるだけ会わせたくなかった。会っても長話をするつもりはないし、させたくない。

「素直じゃないなぁ、Aは。会いたかったくせに」

『小西さんと会ってたらいつまでも帰れません』

「帰さないぞっ」

Aが言うには今は先輩と後輩、兄と妹のような関係だ。数年前のように恋心は抱いていない。

『ぜんっぜん可愛くない！痛い！』

「痛いなんて言うな！」

俺が知っている彼よりは歳を重ねて随分渋さが増したけれど、元々は爽やかな美青年だった面影がよく残っている。今は“イケおじ”と呼ばれる類に入るイケメンだ。

軽快でノリがよく、愛のある弄り弄られを2人は楽しんでいる。俺にはない相手の大人の雰囲気がより一層憂鬱にさせる。友達が多いのも不安なのに元彼と仲がいいのはもっと不安で。

『あはっ！』

帰りたい。早く2人きりになりたい。