story7:歪み ページ9
「…え」
3年生の女子グループから忠告を受けた、次の日。
その時から、始まったのだ。
朝、いつも通り登校して靴箱を開けると、そこに私の上靴は入っていなかった。
何てベタな、と思ったけれど、実際言葉で傷つけられるよりも何故か心は深く抉られた気がした。
キヨ「A？どうしたうろついて」
靴下のままその辺をうろついて上靴を探していると、私より少し遅れて登校してきたキヨが私の姿を見て不思議そうに尋ねてきた。
「あ、…」
その時なぜか、ほぼ本能的に”言わない方がいい”。そう、思ってしまった。
正確に言うと、
キヨに迷惑をかけたくない。
そして、
いじめられてるかもしれない、そんな惨めな姿を、キヨに見られたくなかったのだ。
「…上靴、忘れちゃって」
作り笑顔を張り付けてなるべく明るく言うと、キヨは眉を潜めて何か言おうと口を開く。不自然な笑顔だということは、自分でも分かっていた。
「スリッパ、借りてくるから」
私はキヨに何か言われる前にと、急いでその場から離れて職員室へと向かった。
借りた赤いスリッパを見ながら、思う。
＿＿＿こんなこと、どうってことないし。
でも、こんなことで終わりじゃなかった。
ペタペタと足音を響かせながら教室に行くと、私の机の上には百合の花が花瓶に入れられて置いてあった。
「…なに、これ」
クラスの人達は皆見て見ぬふりだ。
気まずそうに私から目をそらしながら、ひそひそと噂話をしている。
『Aさん、3年生の女子たちに目、つけられたんだって』
『知ってる。キヨ先輩絡みでしょ？』
『確かにあの子、ちょっとすかしてるところあるしムカつくのも分かるっていうかね』
＿＿＿吐き気がした。
どうしてキヨと幼馴染みだから、なんて理由でこんなことになってしまったのだろうか。
私には、わからなかった。
それから私は毎日のように机に花を置かれ、
物を隠されたり、捨てられたり、
教科書や机に悪口を書かれたり、
典型的な嫌がらせを受けるようになった。
次第に学校に行くのが憂鬱になって、どんどん自分の中の感情が失われていくのがわかった。
何も感じなければいい。
そうすれば、傷つくことなんてない。
ある日学校に行くと、机の上に1枚の紙が置かれていた。
”キヨとの縁を切れば、この嫌がらせを止める”
それは、私の暗く濁った心に一筋の光を見せた。
キヨ「あ、A！」
＿＿＿ごめんなさい。
私は心の中で謝りながら、キヨを無視した。
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作者名：みみみみみ | 作成日時：2022年10月22日 0時
