君らはもう少し私の心臓に優しくして欲しい (ページ9)

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続。鬼ごっこ糖度Lv.25(死柄木弔) ページ9

2nd round：case.2 死柄木弔

「ﾊﾜｯ、えとっすみません!! お、おおおケガはないでしょうか!!｣

や、やらかした。
躓いた拍子に盆から飛び出したグラスは綺麗な弧を描き、我らがボスの頭上に降りかかった。死んだ。

「無いけど。で?」

ｱｯ死ぬ。じろりと睨まれた鼠は肩を震わせるしかない……じゃない!! これではまた二の舞いだ。無能な鼠だって学ぶのだ。

「そうだ拭くもの、バスタオル?? そうだ、黒霧さんお風呂、お風呂炊きたいです」

「分かりました」

黒霧さんの柔らかい声に安堵して、私はバックヤードから手ぬぐい丈のタオルを持ってくる。大丈夫、まだお怒りは頂点に達してない。

「し、失礼します！」

私には高い彼の頭を拭こうと背伸びしてタオルをかけ、優しく丁寧に拭いていく。

「ん、いい子」

お怒りが静まった気配を察知!! 良かった、これで正解だった。

「ふぎゃっ!!?」

安堵も束の間。今度は私が頭上から液体をぶちまけられた。あれれー？おかしいぞー？？我らがボスは情緒がジェットコースター。

死の気配を察知。
逃げる? 逃げよ?

身を翻し、勝手口を目指そうとした瞬間。

「オイオイ、どこ行くんだよ」
「ﾋｪｯ」

するりと蛇が這うように、腰に左腕が絡みつく。耳元で「寂しいじゃないか」と囁かれてしまえば、私はもう動けない。

刷り込まれた脳が、もう、抵抗を許してくれないのだ。私は貴重なヒーラーらしいので殺されはしないだろうけど。痛いのは嫌いです。

「怒るなよ。なァ、A。わざとじゃないんだぜ」

頭上から降ってくる、蜂蜜を溶かしたようなドロッとした声。この怖いくらいに優しい声は、事実恐怖の前触れだと私は知っている。

「イエ。お気に入りなさらず……」

そして、楽しそうな実にいい笑顔。死を確信。

「困った。俺もお前も風邪を引いてしまうなァ。……一緒に暖まろうか、A」

ひぇっ。無理。

「黒霧」

「はい、湯船できましたよ」

「あ、あの拒否権は」

白々しくもそう宣うお方に、色々な危険を察知した私は恐る恐る尋ねる。
すると彼は笑みを深めて

「あると思う?」

ｱｯ死んだ。