8.力不足 ページ8
「大丈夫?顔色悪いわよ」
アマネに顔を覗きこまれて、はっ。と我に返る。なんとか「大丈夫」と声を絞り出すと、彼女は気の毒そうな表情をした。
「そうなるのも仕方ないか。シルバ様も、イルミ様がそんな風に暴走するとは思わなかったらしいし。さすがにあんたを気の毒に思ったのか、クールダウン期間として五日の休みを下さったわ。……まあ、もう三日経っちゃったけど」
「クールダウン期間?」
「ええ。仕える人に恐怖心を抱いてちゃ仕事にならないでしょ。だから心の整理をつかせるためにね。仕事に諦めをつかせるための執行猶予と捉えてもいいわ。あんたも知っての通り、専属になるのは決定事項だから」
「五日で心の整理なんてできないよ……」
「あと二日ね。整理はつかなくても、準備はできるでしょ?もしまた殺されそうになっても、覚悟ができてれば怖さは半減。備えあれば憂いなしよ」
(アマネちゃん……究極にドライだ)
いつもは頼れる姉御肌だけど、こういう時に「ああ、ゾルディック家執事だ」って思い知らされる。
私が俯いていると、何を勘違いしたのか、「心配しないで。骨はちゃんと埋めてあげるから」と言われた。結構です。
「ま、そんなに気落ちしないで。ほら、あんたのために粥を作ってあげたから。お腹空いてるでしょ、まずは食べて」
「アマネちゃん……!」
前言撤回。確かに時々冷酷なところもあるけど、彼女は基本世話焼きだ。
もぐもぐと粥を口に運んでいると、彼女はそれと、と言った。
「シルバ様はああ仰ったけど、あと2日、あんたには通常通り執事の訓練をしてもらうから」
「え?」
「え、じゃない。まさかあんた、今のままで本当にイルミ様の専属が務まると思ってるの?明らかに力不足よ。このままじゃ、たとえ彼が手を下さなくても、あんたに嫉妬した他の執事見習いに暗殺されるわ」
「え!?嫉妬って、それにああ暗殺って!?」
耳慣れない用語に驚いていると、呆れ顔をされた。
「当然でしょ。ここでは誰もがライバル、皆上に行きたがってるのよ。そのためには特別才能に溢れてない限り、他人を踏み台にしてのし上がらなきゃ。あんた、そんな連中からしたら格好の餌食だからね。自覚してる?」
「して、ないです……」
「でしょうね。てことで、まずあんたはそんな奴らに軽々しく殺られないよう、強くならないと。2日じゃ足りないけど、基礎はちゃんと叩き込むわ」
覚悟してね、とほほ笑むアマネの顔は、なぜかやる気に満ち溢れていた。
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バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - 甲賀忍者さん» ありがとうございます!ゴンのひたむきな真っ直ぐさを意識して夢主ちゃんを作っているので、ゴンのようだと言ってくれて本当に嬉しいです! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - slchang02さん» コメントありがとうございます!完走まで更新頑張ります! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 楽しく読ませていただいております!ゴンの様な真っ直ぐな夢主ちゃんの事応援してます! (2020年11月28日 20時) (レス) id: 0e780aa7b5 (このIDを非表示/違反報告)
slchang02(プロフ) - とても面白かったです。続きが読みたいです。 (2020年11月25日 1時) (レス) id: 270d07ae3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バナナの皮でも齧ってろ | 作成日時:2020年10月17日 2時