30.バトラートーナメント ページ30
「バトラートーナメント……」
「まさか聞いたことがないなんて言わないよね?」
Aは首を縦に振った。アマネから聞いた言葉を思い出す。毎年十二月に行われる執事見習いのランク付けイベント。13歳以上の参加は強制。ここでの成績が、執事としての行く先を大きく揺るがす。
「い、いえ!友達から聞きました。トーナメントで上位になった人には、執事昇格試験の資格が与えられる……ですよね」
「そうだけど。……友達?」
イルミが眉を顰める。「友達」。その言葉に、まるで理解ができないという風だった。
「お前は本当に能天気だね。ここにいる奴は全員お前の敵なんだよ?もう少し危機感を持ったら」
「え?でも……」
「……忠告しとくけど、養成所はお前に友達を作らせるためにあるんじゃない。周りは全員ライバル。蹴落とすためにはどんな手段でも使っていいのがここのルールなんだ。お前の言う友達に、裏がないなんて証明できるの?」
「それは……」
アマネも同じようなことを言っていた。邪魔な人間の暗殺は黙認されてる、そんな道理がまかり通るのがこの養成所だ。自分は考えが甘いのだろうか。Aは不安に襲われた。だがアマネはきっと違う。そういう人間とは思えない。慣れないところに来て、不安だった自分の話し相手になってくれた。イルミに殺されそうになって、三日寝込んだ時も看病してくれたのだ。
Aが難しい顔をして黙り込むのを見て、イルミは視線を外した。
「ま、いいよ。お前がここで誰かに殺されても、替わりはいくらでもいるし。とりあえずオレからはそれだけ。三年待ってやるから、その条件をクリアすること。そしたらお前を専属だって、正式に認めてやる」
席から立ち、部屋から出ていこうとしたイルミ。その後ろ姿に、Aは慌てて声をかけた。布団をはがし、冷たい地面に素足を乗せ、立ち上がる。
「待ってください!」
「なに」
「わ、私にチャンスを下さったのは、なぜですか」
その問いに、イルミはすぐに答えなかった。答えられなかった、のほうが正しいのかもしれない。
数秒を置いて、彼は静かに言った。
「さあ、どうしてだろうね」
イルミにもよくわからなかった。この平凡な少女が正式な執事になる確率は、万分の一もないだろう。それなのに自分は彼女を試そうとしている。明らかに時間の無駄にしかならないのに。
「ただ……そうだな。ちょっと見てみたくなったのかも」
「凡才がどこまで登っていけるかを、さ」
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バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - 甲賀忍者さん» ありがとうございます!ゴンのひたむきな真っ直ぐさを意識して夢主ちゃんを作っているので、ゴンのようだと言ってくれて本当に嬉しいです! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - slchang02さん» コメントありがとうございます!完走まで更新頑張ります! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 楽しく読ませていただいております!ゴンの様な真っ直ぐな夢主ちゃんの事応援してます! (2020年11月28日 20時) (レス) id: 0e780aa7b5 (このIDを非表示/違反報告)
slchang02(プロフ) - とても面白かったです。続きが読みたいです。 (2020年11月25日 1時) (レス) id: 270d07ae3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バナナの皮でも齧ってろ | 作成日時:2020年10月17日 2時