【H×H】彼女はイルミの専属執事

26.替わりはいくらでも（1）（＊今更設定のようなものです） ページ26

ゾルディック家本邸。薄暗い廊下の先から、ハイヒールの音が高らかに響く。強い焦燥を滲ませたその音を鳴らす者は、この家で一人しかいない。それがだんだんと自室に近づいてくるのに気づき、シルバは暗殺依頼の書類からゆっくりと顔を上げた。
　今日はどんな不満不平を聞かされるのだろう。愛しい妻はいつも些細なことを過剰に心配し、自分に文句を言いに来る。その内容は執事の容貌から明日のドレスまで多岐にわたり、もはやシルバには予想すらできない。いつも想定外の愚痴に頭を悩ませる彼であったが、しかし今回に限っては、その内容を考えるまでもなかった。時期的に彼女が出してくる不平は一つ。……息子の専属執事についてだろう。

「あなた！」

　バンッ！と勢いよくドアが開けられ、甲高い声が部屋中に響く。ドレスを揺らし、全身で不愉快を体現している彼女を前に、シルバは泰然と構えていた。

「キキョウか。どうした」

「どうしたもこうしたもありません！わたくしに相談もせず、イルミの専属を決めたでしょう！」

　そう言って彼女は、手に持っていた書類を夫に投げつけた。くしゃくしゃになったその紙束は仲介屋の執事管理報告書だ。この家の養成所に集う少年少女らは、その六割以上が仲介屋の売買で得た人材である。この管理報告書は、いわば彼らの品質保証書のようなもの。そしてシルバに投げつけられたページには、数日前に彼が長子の専属にした、あの治癒専門の見習い執事について書かれていた。

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NO.02473

氏名：A(苗字不明)
性別：女
推定年齢：10歳
出身：不明。クカンユ王国の地方出身だと思われる。
発見地点：クカンユ王国北西部。栄養失調により瀕死になっていたところを発見。
状態：治癒能力を使えることから、しばらく預かり様子を見た。健康状態が万全に回復したため、この度本邸に送ることを判断。治癒以外の能力は平均以下だが、伸びしろはあるので、試しの門を飛ばして養成所入りすることを推薦する。

念の使用は可能だが、基礎は全くできていないため突発的に習得したものだと考える。
現在判明した能力は以下の通り：
一、癒しの旋風(グリーンヒール)
対象者の身体的傷を全治させ、そのダメージを全て自分の身体に転移する
二、癒しの光(ペムリアン)
対象者の心理的不安や疲労など、内在的な傷を癒し、それを自分に転移させる

いずれも発動に伴い自分の身体を傷つけるため、制約と誓約を取り入れた能力だと推測される。

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