24.理解不能 ページ24
ドサッ、と少女の身体が地面に崩れた。
念を発動し、イルミの苦痛を自分に転移した直後。
強い浸透性を持った毒が体を駆け回り、Aはまるで水の中に沈められたように呼吸ができなくなった。心臓が刃を刺されたように痛い。そのあまりの痛みを、どうすることもできない。
短く呻いたあと、一気に視界が曇る。気付けばAの意識は途絶え、固い地面に身体を打ち付けた。
(……理解できない)
そんなAの隣で、イルミはゆっくりと起き上がる。先ほどまで感じていた強烈な痛みや苦しみが、まるで幻だったかのように消えていた。意識を失いながらも、苦しみに歪んだ少女の顔を見下ろす。自分を殺そうとする者を救うため、自らを犠牲にまでしようとした。そんな彼女の姿を、イルミは不可解なものを見るような目で見つめていた。
(なんでわざわざオレを助けた？何度も殺すと釘を刺したのに)
まさか本気にされなかったわけでもない。あいつは確かにその言葉を吐かれるたび、恐怖に顔を青白くさせていた。殺されたくない、と無様に命乞いまでしたのだ。
しかし、とイルミは考える。
念を発動する直前。Aは死を覚悟しているようにも思えた。あれほどまで怯えていた死を、自ら受け入れているようにも思えた。
(……意味がわからない)
誇りと、人命。確かそんなことも言っていたか。
あの臆病な少女の態度が一気に変わったのは、この言葉を口にしてからだ。何が彼女の心に変化を与えたのか。当然ながらイルミにとって、そんなのは知る価値もない、どうでもいいことだ。……どうでもいいが、彼女の強い意志を宿した瞳が、なぜか頭から離れなかった。
イルミはスッと立ち上がる。いつの間にか、岩壁に群がる蝙蝠の数が増えていた。
暗闇の中、無数の瞳が倒れる少女を狙っている。再び襲撃する機会を、今か今かと伺っている。
(こいつは死ぬ)
この洞窟内において、彼女はあまりにも無力だ。いや、洞窟に限らない。外に出ても、彼女は永遠に『狩られる側』の存在だ。そんな少女を、イルミは感情の読めない瞳で一瞥した。
(オレがこいつから離れた途端、蝙蝠の群れに襲われて死ぬ。でなければ毒にやられて三時間後に死ぬ。そうでなくても洞窟内の寒さにあてられ凍え死ぬ。……オレが直接手を下すまでもない)
どちらにせよ、ここで少女を捨て置けば、彼女は勝手に死んでくれる。
そして自分はインナーミッションを果たし、念願の『専属交代』を叶えられるのだ。
……なんて、儚く脆い命なんだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 106人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - 甲賀忍者さん» ありがとうございます！ゴンのひたむきな真っ直ぐさを意識して夢主ちゃんを作っているので、ゴンのようだと言ってくれて本当に嬉しいです！ (2020年11月28日 23時) (
レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - slchang02さん» コメントありがとうございます！完走まで更新頑張ります！ (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 楽しく読ませていただいております！ゴンの様な真っ直ぐな夢主ちゃんの事応援してます！ (2020年11月28日 20時) (レス) id: 0e780aa7b5 (このIDを非表示/違反報告)
slchang02(プロフ) - とても面白かったです。続きが読みたいです。 (2020年11月25日 1時) (レス) id: 270d07ae3d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：バナナの皮でも齧ってろ | 作成日時：2020年10月17日 2時
