19.お前には無理だね ページ19
「私が……」
Aがやっとのことで出した声は、消え入りそうなほど弱々しかった。
自分が戦闘面において役に立たないことはわかり切っている。しかし、専属としての実力が、イルミの家族内での立ち位置に大きく影響することまでは考えが回らなかった。
これでは、殺意を抱かれるのも不思議ではない。気付けばAは、考える前にこう口走っていた。
「もし私が……強くなれば。イルミ様をお支えできるようになれば。私を専属だと、認めて下さいますか」
「は?」
短く発する声に含まれる苛立ちが、より一層強くなる。
「なにそれ。お前がちんたら強くなるのを、オレにただ待てって言いたいの」
「そっ、そういう訳では……」
「そういう訳だよ。大体お前が今から訓練したとして、将来専属クラスに匹敵する実力が身につく確証はどこにもない。むしろ可能性はゼロに近いだろうね」
正論だ。Aの将来に賭けるのは不確定要素が多すぎる。他の執事に交代したほうがよっぽど確実なのは、他ならぬA自身もわかっていた。
「悪いけどオレ、無意味なことに時間をかけるの嫌いなんだ」
「……、ですが!」
わかっている。けれど、だからと言ってこのまま死を待つなんてできなかった。活路を見出そうと、Aが叫びにも似た声を発した、その時。
洞窟の中、二人が佇む場所に、急速に無数の羽音が聞こえてきたのだ。
羽音はそこかしこから聞こえてくる。慌ててAが光を岩壁に向けると、何もいないと思っていた壁の四面八方には、夥しいほどの蝙蝠がぶら下がっていた。迷い込む餌を待っていた蝙蝠たちは、餌を見つけて一斉に羽ばたく。
「っ、いやっ……!」
二人めがけて突進してくる蝙蝠たち。瞬く間に全身に群がってきたその姿を目にし、Aは悲鳴を上げ目を瞑ることしかできなかった。すぐさま、身体のそこかしこに痛みが走る。……血だ。血を啜られているのだ。鋭い牙が皮膚に突き立てられる感覚。餌食にされてる、反撃しないと。頭で理解していながらも、Aは恐怖で身体が硬直していた。
……そんな時だ。幾つのも叫び声が聞こえ、地面に何かが落ちる音が続けざまにした。いつの間にか啜られている感覚はない。恐る恐る、目を開けると、地面は蝙蝠の屍で溢れかえっていた、
「ひっ……」
「オレを支える、とか言ったっけ」
全身を返り血で赤く染めたイルミが、Aを見つめる。
その瞳の中には、震えるだけしか能がない、臆病な少女が写っていた。
「今のでわかったろ。お前には無理だね」
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バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - 甲賀忍者さん» ありがとうございます!ゴンのひたむきな真っ直ぐさを意識して夢主ちゃんを作っているので、ゴンのようだと言ってくれて本当に嬉しいです! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - slchang02さん» コメントありがとうございます!完走まで更新頑張ります! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 楽しく読ませていただいております!ゴンの様な真っ直ぐな夢主ちゃんの事応援してます! (2020年11月28日 20時) (レス) id: 0e780aa7b5 (このIDを非表示/違反報告)
slchang02(プロフ) - とても面白かったです。続きが読みたいです。 (2020年11月25日 1時) (レス) id: 270d07ae3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バナナの皮でも齧ってろ | 作成日時:2020年10月17日 2時