15.落下地点は ページ15
(消えた……!?)
伸ばした手が空を切り、イルミはわずかに目を見開かせた。
少女はたしかに一秒前までここにいた。なのに、なぜ。
「!」
考えをまとめる前に、おかしい、と気が付いた。地上に降り立ったはずなのに、地面を踏んだ感触がない。それどころか落ちている感覚さえある。急いで足元を見遣ると、先ほどまで確実に地面だったところに、大きな穴ができていた。イルミの身体は重力に従って、下へ、下へと落ちていく。
(受け身……!)
くるりと身体を回転し、衝撃に備えた。10mほどで固い地面に足が付く。そのまま流れに沿って体を回転させ、衝撃を和らげた。イルミは素早く起き上がり、自分が今どんな状況にあるのか確かめた。
落ちた先は薄暗く、地面はほのかに湿っている。見渡す先は岩壁だらけで、植物が自生している様子もない。落下地点から光が入り込んできてはいるが、奥のほうは光源一つなさそうだ。
洞窟、なのだろうか。イルミが目を凝らし、観察しようとしたその時だった。
「い、い、イルミ様!?」
すぐそばで素っ頓狂な声がした。視線を向けると、背中から着地した状態で転がっていたAがイルミを見上げて青ざめている。阿呆丸出しの体制だ。どうやら背中に背負っていた大きなバッグが緩衝材の役割を果たしたらしい。もたもたと起き上がる少女を尻目に捉えながら、「悪運強い……」とイルミは呟いた。
「お前のせいでこんな所に落ちたんだけど。どうしてくれるの」
「え……え!ここ、どこですか!?」
はあ、とため息が出そうになる。「溶岩洞。たぶん」とイルミはうんざりとした顔で吐き捨てた。
「ククル―マウンテンは死火山のはずなんだけど。洞窟を見つけること自体稀なのに、更にそこに落ちるなんて……お前、ほんと幸運だね」
「あ、ありがとうございます……?」
皮肉をそうと認識することもできず、Aは自分が落ちたであろう場所を見上げた。陥没した洞窟の天井は天窓のようになっていて、そこから光が差し込んでいる。天窓は随分高い所にある。そこから脱出を図ることはできそうにない。
「どうしよう……」
まさかこんなことになるなんて。よろけるAの横で、しかしイルミは「オレは大差ないけどね」と平然としていた。
「殺す場所が変わるだけ。むしろ好都合」
ヒュッと空気を斬る音が耳元で響く。気付くと首元にはイルミの手が水平に添えられていた。その爪がAの首の皮膚に触れ、赤い血が一滴、まっすに垂れ落ちた。
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バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - 甲賀忍者さん» ありがとうございます!ゴンのひたむきな真っ直ぐさを意識して夢主ちゃんを作っているので、ゴンのようだと言ってくれて本当に嬉しいです! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - slchang02さん» コメントありがとうございます!完走まで更新頑張ります! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 楽しく読ませていただいております!ゴンの様な真っ直ぐな夢主ちゃんの事応援してます! (2020年11月28日 20時) (レス) id: 0e780aa7b5 (このIDを非表示/違反報告)
slchang02(プロフ) - とても面白かったです。続きが読みたいです。 (2020年11月25日 1時) (レス) id: 270d07ae3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バナナの皮でも齧ってろ | 作成日時:2020年10月17日 2時