14.仕留める ページ14
ザッ、ザッと地面を踏みしめ前に進む。10キロのベストを身に着けているせいか、一歩進むごとの負担が普段の倍だ。それでも斜面が平坦なおかげで前進してゆけるが、それもだんだんと昇りにくくなっていた。300mほど進んだ時だろうか。ふいにAの背後、正確には頭上で、木々に紛れて何かがガサリと音を立てた。
(?)
その正体が気になり、Aは音がしたほうを振り向いた。しかし、高く密集する木々の間に、怪しい影は一つもない。森の動物たちが通り過ぎたのだろうか。……否、それにしては何かがおかしい。
(……なんだろう。さっき、一瞬視線を感じた気がしたけど……)
しかし、何度目を凝らしてみても、森は相変わらず森のまま。なんの異変もなさそうだ。
「……気のせい、かな?」
アマネがうまくカモフラージュしてくれたおかげで、養成所の人々は、未だにAがショックで寝込んでいると信じ切っている。出かける際も、他の執事見習いから気づかれずに済んだのだ。つけられている可能性は低い。
それでもAは、言い知れぬ不安を胸に抱えていた。
=====
(オレとしたことが、気づかれるところだった)
木々の間に身を隠しながら、イルミはその視線の先に、先ほどまで考えていた少女の姿を捉えた。思わず走るのをやめ身を隠したが、急な動きに身体がついていけなかったようで、止まるときに音を出してしまった。暗殺者としてあるまじき失態。やはり自分はまだまだ未熟なのだと、苦い気持ちが心中に広がる。
(……けど、また何事もなかったように進んでる。バカなのかな)
こんな早朝に妙な装備を着込んで、何をするつもりなのだろうか。登っている所からして、逃げようとしているわけではないらしい。周りには同じ見習いらしき姿もない。……特訓でもしているつもりなのだろうか。
……いや、そんなことはどうでもいい。重要なのは今、こいつが隙だらけだということ。
イルミは自分の存在を極限まで押し殺しながら、右手に力を込めた。ビキリと血管が浮き、爪が鋭利に尖る。先ほどまで仕事に使っていた、一瞬で人を絶命させるようにできた凶器だ。
(今度こそ、仕留める)
きょろきょろと、あたりを見回しながら進んでいく彼女の左胸に狙いを定める。間合いが最適になったその時、イルミは木上から飛び降りた。未だに彼女は殺気に気づかない。
(殺せる……!)
刃を彼女めがけて突く、その直前。
少女の姿は、イルミの前から忽然と消え去った。
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バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - 甲賀忍者さん» ありがとうございます!ゴンのひたむきな真っ直ぐさを意識して夢主ちゃんを作っているので、ゴンのようだと言ってくれて本当に嬉しいです! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
バナナの皮でも齧ってろ(プロフ) - slchang02さん» コメントありがとうございます!完走まで更新頑張ります! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 8e43bab9f5 (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 楽しく読ませていただいております!ゴンの様な真っ直ぐな夢主ちゃんの事応援してます! (2020年11月28日 20時) (レス) id: 0e780aa7b5 (このIDを非表示/違反報告)
slchang02(プロフ) - とても面白かったです。続きが読みたいです。 (2020年11月25日 1時) (レス) id: 270d07ae3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バナナの皮でも齧ってろ | 作成日時:2020年10月17日 2時