057.役に立たない俺 ページ10
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そろそろAちゃんの定時の時刻だ。迎えに行って、その後ディナー。ディナーとか言って、変にオシャレなのがすげぇ恥ずかしい。でも、相手は正真正銘好きな女の子なわけで。浮足立たないわけがなかった。
昔に比べたら落ち着いたと言われる服装。けれど、少しいい所で食べる時に着る服なんてあるだろうか。クローゼットをゴソゴソと漁っていると、ジャージのポケットでスマホが震えた。
液晶を見れば、表示されている名前はレトさんだった。
「どしたの?」
『キヨくん、今家?』
「うん」
レトさんは、「Aちゃん、今俺ん家にいてさ」と言葉を続けた。「え?」と尋ね返せば、レトさんは「いや、変な話じゃなくて」と慌てたように否定する。
『今日最後の出勤って言ってたから、何かプレゼントでも渡そうと思って、暇だったし会社の前まで行ってて』
「うん」
『会社の前で、Aちゃん、知らないおじさんとなんか揉めててさ』
「……」
固まる。考えるまでもなく、例のストーカーだ。
「Aちゃんは、無事?」
『うん。助けたあと若干過呼吸っぽくなってたから、落ち着くまでってことでうちにきた』
「……」
なんでレトさんちなんだろうとか、もっと早くAちゃんのこと迎えに行っていればとか、色んな思いがぐるぐると頭の中を回る。レトさんはそれを感じ取ったように、「ほんと、俺がたまたま通り掛かっただけだから」と言葉を重ねた。
『今日、晩御飯何時から行くの?キヨくんAちゃんのこと迎え来れる?』
「19時。……でも、そんなことあった後に外食なんて嫌でしょ」
『んー……』
「迎えは行ける」
『今まだ落ち着かないから、落ち着いたら改めて連絡する』
「ありがとう」
「じゃあ後で」とレトさんは電話を切った。
俺は服をしまいこむと、大きく溜息をつきながらどさっとベッドにうつ伏せになった。
Aちゃんが仕事を辞め、俺たちが付き合っていることが世に晒されて、これで場が納まったと思っていた。よく考えてみれば、そんな口約束、ストーカーが守るはずもなかった。常識が通じる相手ではない。
それに、今日はその上司も関わっている会社に行ったわけで、待ち伏せして絡まれるなんて簡単に想像が着くことだった。
Aちゃんが泣きながら俺を頼ってきたあの夜から、Aちゃんのことを守ろうと動いてきたつもりだった。
守ろうなんて言いながら、大事な時に役に立たないあたり、情けない。俺は大きく「あぁー……」と唸った。
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parumu(プロフ) - なみのさん» こちらにもありがとうございます!読みやすさとそれっぽさ(?)を意識しているので嬉しいです!笑 これからもよろしくお願いします! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - 夜さん» 長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます、、、!頑張ります! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - さいっっっこうじゃないですか!文章も分かりやすくて最高です!!(二回目) (12月19日 21時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 最初から読んでいます。本当に最高です。文才もあり羨ましいです!応援しています! (12月9日 11時) (レス) id: b9a823def9 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - りんごさん» 読んで頂きありがとうございます💕!🦀さんの声を脳内再生しながら、🦀さんならどうするかなと想像しながらリアルを追求して書いてるので嬉しいです🥲! (12月2日 3時) (レス) @page49 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:parumu | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時:2022年6月23日 22時