055.レトさんまでも ページ8
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過呼吸は、レトさんのおかげで収まったものの、未だに掴まれた腕の感触と、あの真っ黒な瞳で見つめられる感覚が残っていて、怖くてたまらない。レトさんの隣を歩いて部屋の中に入れてもらうと、レトさんは私をソファに座らせてあたたかいココアを持ってきてくれた。
「……ありがとう」
「今は無理して喋らなくていいよ」
「荷物とコートちょーだい」と言って小さく笑うレトさんに、私はバッグと花束と、コートを脱いで手渡した。レトさんはコートをハンガーにかけると、「ちょっとごめんね」と言って部屋から出て行った。
私は、ココアから上がる湯気を見つめながら、長く細いため息を吐いた。
1口ココアを飲むと、甘さとあたたかさが全身に広がり、急に涙腺が緩み、冷えた頬にぽろぽろと熱い涙が伝う。
「……バカだ」
もう解決したものだと思っていた。解決していたのは私の中だけで、相手はむしろ行動が過剰になっている。
相手の支離滅裂な行動に、怒りややるせなさが湧くけれど、でも、それ以上に、相手の言うことを鵜呑みにして行動した自分の浅はかさに腹が立つ。キヨくんだけじゃ飽き足らず、レトさんまでも巻き込んでしまった。
怒りとか恐怖とかやるせなさとか悲しみとか、色んな感情がごちゃごちゃと渦巻いて、ただ涙を流すしかない自分がもっと嫌だ。
「ん」
「……」
「おーい」
「……帰る」
「はぁ?」
私にティッシュを差し出したレトさんを見て、徐に立ち上がる。「待て待て待て」と、私を無理矢理ソファに座らせた。
「レトさんまで、巻き込みたくない」
「……」
「これ以上迷惑かけたくない」
「……ねぇ」
レトさんは暫く考えるように黙っていたけれど、呆れたように笑って私の前に胡座をかいた。「何があったのか、まだよく分かってないけど」と苦笑いして、私の目をじっと見る。
「俺のこと大事に思って、巻き込みたくないって言ってくれてんでしょ?」
「……」
「それはありがとね、その気持ち自体はすげぇ嬉しい」
「でも」とレトさんは言葉を選ぶように間を開ける。
「俺も、Aちゃんのこと同じくらい大事に思ってんだわ」
「……」
「俺はAちゃんが困ってんなら助けたいし、それを迷惑とは思わないよ」
いつになく優しく真っ直ぐな言葉を伝えるレトさんに、少し鼓動が早くなる。レトさんは少し頬を緩めて「むしろ、1人で抱え込まれる方が迷惑です」とはっきりと言う。私はその不器用な言い種に、小さく頷いた。
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parumu(プロフ) - なみのさん» こちらにもありがとうございます!読みやすさとそれっぽさ(?)を意識しているので嬉しいです!笑 これからもよろしくお願いします! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - 夜さん» 長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます、、、!頑張ります! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - さいっっっこうじゃないですか!文章も分かりやすくて最高です!!(二回目) (12月19日 21時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 最初から読んでいます。本当に最高です。文才もあり羨ましいです!応援しています! (12月9日 11時) (レス) id: b9a823def9 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - りんごさん» 読んで頂きありがとうございます💕!🦀さんの声を脳内再生しながら、🦀さんならどうするかなと想像しながらリアルを追求して書いてるので嬉しいです🥲! (12月2日 3時) (レス) @page49 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:parumu | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時:2022年6月23日 22時