088.シンプル不審者 ページ41
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また意味のわからない時間に散歩に出てしまった。
俺は夜風を浴びながら街の中をぶらぶらと散歩していた。
Aちゃんが出ていってから二、三週間。
はじめの方は流石に多少応えたけど、今はそこそこ復活してきた、と思う。フジとかは「ほんとかよ」と笑うけど、本当だ、と思う。
(らしくもない……)
自分に呆れて深々とため息をつくと、持っていたペットボトルの水を立ち止まって飲み干した。
と同時に目に入ってきた姿に、心臓の辺りがざわつく。
なんと言う偶然。
この広い東京で、タイミングがいいのか悪いのか、Aちゃんがスーツ姿の男と楽しそうに話しながら歩いてる姿が目に映る。
Aちゃんは嬉しそうに話すと、隣の男に自分のスマホの画面を見せる。隣の男は画面を見るために少し彼女の方に身を寄せた。
(ちけーよ)
正直、俺たち身内の男以外とこんなに距離の近いAちゃんを見たのは初めてな気がする。それも彼女も全く嫌そうではない。昔変な実況者に絡まれてた時なんか、彼女の顔は死んでいたのに、今回は普通に楽しそうだ。
俺はなんだか見てられなくなってきて、思わず背を向ける。
「……すげー好き」
「私も好き!」
ぎょっとして思わず振り返る。俺くらい身長のある彼が少し屈んでAちゃんを覗き込むように見ていて、Aちゃんは嬉しそうにニコニコ笑って彼を見ていて。ちょっと待て。
「……」
ちょっと待てと思った瞬間には既に俺はスニーカーで地面を蹴っていて、嬉しそうに話しているAちゃんの手首を思わず握っていた。シンプル不審者だ。
「わっ」と声を上げたAちゃんは強張った顔から、俺のことを確認するなりぽけっと口を開けて見つめる。隣に立った男も、ただ口を開いてびっくりしていたかと思えば、「……キヨさん?」と俺の名前を口にした。
「……キヨくん?」
「………………」
途端に自分の行動を自覚してすげえ恥ずかしくなってきた。俺はゆっくりとAちゃんの手首から手を離すと、無言で踵を返そうとする。
「あ、む、迎えにきたんですかね?キヨさん」
「え……」
「すみません、駅まで送ろうと思っただけなんですけど」
男の方が慌てたように喋り始める。
そうか、彼は俺とAちゃんが付き合ってると思っているのか。ちらっとAちゃんの方を向くと、Aちゃんは複雑そうな顔をしていて、俺と目が合うとふいっと逸らして男の方を向いた。
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parumu(プロフ) - なみのさん» こちらにもありがとうございます!読みやすさとそれっぽさ(?)を意識しているので嬉しいです!笑 これからもよろしくお願いします! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - 夜さん» 長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます、、、!頑張ります! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - さいっっっこうじゃないですか!文章も分かりやすくて最高です!!(二回目) (12月19日 21時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 最初から読んでいます。本当に最高です。文才もあり羨ましいです!応援しています! (12月9日 11時) (レス) id: b9a823def9 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - りんごさん» 読んで頂きありがとうございます💕!🦀さんの声を脳内再生しながら、🦀さんならどうするかなと想像しながらリアルを追求して書いてるので嬉しいです🥲! (12月2日 3時) (レス) @page49 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:parumu | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時:2022年6月23日 22時