087.がんばってるの ページ40
.
清田くんの会社の方との会議を終え、みんなでご飯に行くことになった。
私はビールを選びかける自分を押し殺し、カシスオレンジを一つ注文した。何度酔っ払って粗相をしてきたかわからない。自立するには自分のキャパを見極めることも大切だ。
「前田さんはぶっちゃけ今回のCM、キヨさんとレトルトさんどっちにオファーするのがいいと思う?」
突然出てきたキヨくんの名前に内心ドキッとしながら清田くんの上司を見つめ返した。「彼氏だからとかそう言う贔屓目なしにね!」と冗談まじりに言われて、苦笑いしながら「……そうですね」と少し悩む。
「キヨくんは万人受けすると思うし、リアクションのレパートリーも多いから、見ていて楽しいCMになると思います」
清田くんも何故か誇らしげにうんうんと頷いている。
「レトさんは、ファンの人がすごく熱烈に喜ぶだろうなって思うし、クリエイティブなのでアイデアとかたくさん出てくると思います」
結局どっちとも決め難い。
悩み混む私に、「いや、確かに知り合いに決めてもらうってのは野暮か!」と笑いながら清田くんの上司の方は言った。
二人とも違った方向でそれぞれ尊敬しているので、私には決められそうにもない。
.
「それじゃお疲れ様!」
「今後ともよろしくお願いします」
「はーい、気をつけて!」
みなさんと居酒屋の前で解散する。ご機嫌に帰ろうとしている私を、清田くんが手首を掴んで止めた。
「送ってくよ、駅まで」
「大丈夫だよ」
「ここはお言葉に甘えといてよ」
笑いながら言う清田くんに、「ありがとう」と頭を下げた。マフラーに口元を埋めながら、ひょろっと背の高い清田くんの後ろをテクテクとついていく。彼の背中を見ていると、ちらちらとキヨくんがよぎるから少し複雑だった。
「A、仕事も実況も頑張っててすげーよ最近」
「そんなことないよ」
「俺も頑張ってるけどなかなかうまくいかなくてさー」
ぐいっと伸びをする清田くん。
私は少し言葉を探しながら黙ると、「……そんなことないけどな」と小さくつぶやいた。
「清田くんが頑張ってるの、私はわかるよ。見てるだけでも十分」
「……」
当たり前の業務以外にも、いつも会議の空気が良くなるように立ち回っているのは清田くんだ。昔からそうだけど、そうやって誰にも嫌な思いをさせない立ち回りが清田くんはすごく上手い。
私の言葉に少し面食らったように黙り込むと、「……ありがとう」とはにかんだ。
.
767人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「キヨ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
parumu(プロフ) - なみのさん» こちらにもありがとうございます!読みやすさとそれっぽさ(?)を意識しているので嬉しいです!笑 これからもよろしくお願いします! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - 夜さん» 長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます、、、!頑張ります! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - さいっっっこうじゃないですか!文章も分かりやすくて最高です!!(二回目) (12月19日 21時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 最初から読んでいます。本当に最高です。文才もあり羨ましいです!応援しています! (12月9日 11時) (レス) id: b9a823def9 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - りんごさん» 読んで頂きありがとうございます💕!🦀さんの声を脳内再生しながら、🦀さんならどうするかなと想像しながらリアルを追求して書いてるので嬉しいです🥲! (12月2日 3時) (レス) @page49 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:parumu | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時:2022年6月23日 22時