086.守られてばかり ページ39
.
「……頑張れWi-Fi……」
私は時計と動画アップロード中の画面を交互に見つめる。
新作のゲーム実況もとりながら、例の新作ホラゲの企画に携わり、なかなか充実した日々だ。相変わらず寝落ちしかけたり、こうしてぎりぎりに動画投稿をしてしまって現在電車に間に合うか間に合わないかの瀬戸際だったりするのだけど。
でも、こうして何かに夢中になっていたらいつのまにかキヨくんとのことも頭から離れているから、忙しすぎるくらいの方が都合が良かった。
私はアップロードが終わった画面に切り替わったのを確認すると、PCの電源を落として足速に寮を出た。
改札を抜けてなんとか電車にも間に合う。
スマホで動画投稿のお知らせをTwitterに投稿する文章を考えていると、ざわっとお尻の辺りに違和感を覚える。
「……」
なんとなく察する。
痴漢だ。
少し前にずれるけれど、お尻に当たった感触は一緒にずれてきて、確実にそうだと確信する。
久々だ、この感じ。画面越しに性的に消費されることにはもう慣れた。画面越しの人物なんてブロックしちゃえばそれまでだったし。でもやっぱり、リアルに直面するこう言う場面は精神的にくるものがある。
「……」
携帯の画面にうつった後ろに立っている人物を確認すると、少し気の弱そうな会社員。
私は意を決して後ろに顔を向けて相手をきっと睨んだ。
「……っ」
無言の攻防戦ののち、消えたお尻の違和感に、胸を撫で下ろす。変にドッドっと脈打つ心臓を必死に落ち着ける。
高校生、電車通学していた時に数度被害にあったことがあったけれど、周りに助けてもらうか泣き寝入りしたことしかなかった。自分で追い払ったのは初めてだった。
少し嬉しい。守ってもらってばかり、人前で泣いてばかりいる自分にもうすっかり辟易していたから、少しでも自分だけの力でトラブルを回避できたのが。
会社の最寄りの駅に着くと、私は足早に車両を後にした。警察に突き出せないあたり私らしいとは思うけれど、立派な一歩だと思う。
今日は清田くんの会社の人たちも交えて会議がある。頭の中でそのシミュレーションをしながら改札を抜けた。
.
767人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「キヨ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
parumu(プロフ) - なみのさん» こちらにもありがとうございます!読みやすさとそれっぽさ(?)を意識しているので嬉しいです!笑 これからもよろしくお願いします! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - 夜さん» 長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます、、、!頑張ります! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - さいっっっこうじゃないですか!文章も分かりやすくて最高です!!(二回目) (12月19日 21時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 最初から読んでいます。本当に最高です。文才もあり羨ましいです!応援しています! (12月9日 11時) (レス) id: b9a823def9 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - りんごさん» 読んで頂きありがとうございます💕!🦀さんの声を脳内再生しながら、🦀さんならどうするかなと想像しながらリアルを追求して書いてるので嬉しいです🥲! (12月2日 3時) (レス) @page49 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:parumu | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時:2022年6月23日 22時