080.もとに戻るだけ ページ33
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「あーあ、財布の中がまた寂しくなっちまったよ」と薄くなった財布を握りしめながら苦笑いするフジ。俺とフジは、昼間からゲームで遊び、晩御飯は奢ってやると言われたので、牛タンを3人前くらい食った。「遠慮を知らねえのか」とフジに怒られたのは言うまでもない。
「そんじゃ、俺もそろそろ帰ろうかなあ、妻が待ってるから妻が」
「……」
「悪い悪い」
Aちゃんが出ていってしまった俺への当てつけのように言うフジを睨むと、へらへらと謝った。俺がこんなぐだぐだしている間に、世間はやる事やってるわけだ。
「いい気晴らしになったわ、ありがと」
珍しくお礼を言った俺に、フジは面食らったような顔をしていたけど、すぐに笑顔で頷いた。根本良い奴だ。
そのあと、探るように俺の事を見て「これからどうすんの」と尋ねた。
「どうするって……、これまで通り、実況とって食って寝るだけだよ」
「Aちゃんとも動画撮るよな?」
「Aちゃんが嫌じゃなければ」
「……結局お前はさ、なんでAちゃんのことふったんだよ」
何故か拗ねたように言うフジに、「なんでお前が不満そうなんだよ」と笑うと、フジは大きくため息をついた。
「お前らを買い物に連れてってあげた時も言ったけど、俺はAちゃんとキヨが付き合ったって聞いてすげー嬉しかったのさ」
「……おー」
「2人ともずっとお互い大事にしてんの知ってたし、やっと報われんだなって思った」
「なんかさあ」
フジの言いたいことはよく分かってる。俺たちの周りには、こんな風に俺とAちゃんがくっつくことを自分の事のように喜んでくれる人で溢れている。それはとても嬉しいことだ。けど
「自信なくなったんだよな」
「え?」
「この前、Aちゃんのこと1番大事な場面で守ってあげられなくてさ、情けねーなって」
「……そんなん、タイミングだってあるし、完璧なんか無理だろ」
フジの言っていることはわかっているけれど、Aちゃんの最後の出勤の日、上司から護ってあげられなかったあれが意外と効いた。
俺はこれまで、Aちゃんの前では一丁前にかっこつけて、彼女のことを引っ張って守って支えてきた自信がある。叶うならAちゃんにとって1番頼れる男でいたいと、そう思っていたわけで。
「俺のくだらないプライドと、Aちゃんの幸せを考えた決断」
「……」
「まあ。もとに戻るだけだよ」
Aちゃんがうちに転がり込んでくる前に戻るだけ。
それだけだ。
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parumu(プロフ) - なみのさん» こちらにもありがとうございます!読みやすさとそれっぽさ(?)を意識しているので嬉しいです!笑 これからもよろしくお願いします! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - 夜さん» 長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます、、、!頑張ります! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - さいっっっこうじゃないですか!文章も分かりやすくて最高です!!(二回目) (12月19日 21時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 最初から読んでいます。本当に最高です。文才もあり羨ましいです!応援しています! (12月9日 11時) (レス) id: b9a823def9 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - りんごさん» 読んで頂きありがとうございます💕!🦀さんの声を脳内再生しながら、🦀さんならどうするかなと想像しながらリアルを追求して書いてるので嬉しいです🥲! (12月2日 3時) (レス) @page49 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:parumu | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時:2022年6月23日 22時