079.唯一無二の存在 ページ32
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「レトさんによろしく伝えておいて」
「はい」
あの後少しだけ3人で当たり障りのない世間話をして、あやさんは「私、そろそろ帰るわ」と急に言い出した。
潰れているレトさんを置いて、私が玄関先まで見送ると、あやさんはマフラーに顔を埋めながら、私の顔をじっとみた。
「レトさんはああ言ってたけど、Aちゃんはぶっちゃけレトさんのことどう思ってるの」
「え」
「……」
「……レトさんのことは」
探るような目線に居心地の悪さを感じながら「……やっぱり特別ではあります」と自分でも探るように続けた。
キヨくんの特別とは違うけれど、やっぱりレトさんも私の人生の中で唯一無二の大切な人だと思う。キヨくんが私の先を引っ張って走ってくれる人だとしたら、レトさんは隣や後ろで私の背中を押してくれる人だ。
だから、「好き」とか「嫌い」とかそんな言葉で簡単に表せるような感情ではなかった。
「これは、Aちゃんがレトさんのこと意識すれば、ライバルが減るから言うんだけどさ」
「……正直すぎませんか」
絶句する私に、あやさんはおかしそうに笑うと、そっと私の耳元に口を寄せる。
「レトさんはAちゃんが好きだと思うよ」
「え……」
「今日終始、『邪魔すんな』って顔で私の事見てたから、彼」
あやさんは、「じゃね」と言うと、私に聞き返す暇も与えず、さっさと家から去っていった。
取り残された私はあやさんの言葉を脳内でぐるぐると再生しながら、机の上に突っ伏しているレトさんの元へ戻ってきた。
長い前髪の隙間から覗く目元と赤い顔に、私はポカリのペットボトルをコトンと彼の前に置いた。
「レトさん」
「……」
「大丈夫?」
「気持ち悪い、最悪……」
すこぶる不機嫌そうに言ってむくりと起き上がったレトさん。ポカリのペットボトルを差し出しながら背中をさすると、虚ろな目で私を見ながらボトルの蓋を開けた。
「……だいじょーぶだから」と私の手首を優しく掴んで、私の手を遠ざけた。手首から伝わる熱がじんわり熱い。
「……おまえ、かえれる?」
「タクシー呼ぶから大丈夫だよ」
「……うん」
「……」
「……だいじょーぶだよ」
レトさんはポカリをぐびぐび飲むと、私の顔をじっと見て「またキヨくんとも一緒に動画、とろーな」と言葉を続けた。
こうやってレトさんが私を励ましてくれるだけで安心するのだから、私にとってやっぱりレトさんは、「特別」以外言いようがない。
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parumu(プロフ) - なみのさん» こちらにもありがとうございます!読みやすさとそれっぽさ(?)を意識しているので嬉しいです!笑 これからもよろしくお願いします! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - 夜さん» 長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます、、、!頑張ります! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - さいっっっこうじゃないですか!文章も分かりやすくて最高です!!(二回目) (12月19日 21時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 最初から読んでいます。本当に最高です。文才もあり羨ましいです!応援しています! (12月9日 11時) (レス) id: b9a823def9 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - りんごさん» 読んで頂きありがとうございます💕!🦀さんの声を脳内再生しながら、🦀さんならどうするかなと想像しながらリアルを追求して書いてるので嬉しいです🥲! (12月2日 3時) (レス) @page49 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:parumu | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時:2022年6月23日 22時