064.まるでほんもの ページ17
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水族館を出た私たちは、続いて伊勢神宮の方へと向かった。人がごったがえしていて、気を抜いたら彼の背中を見失ってしまいそう。
「すげえ人だね」
「ほんとだね、食べ歩きできるかなあ」
「なんか食べたいもんあったら言って、買ってくるから」
とは言うものの、私の身長ではなかなか露店が見えない。人にぶつからないようにキヨくんの後ろを一生懸命ついて行っていると、キヨくんはふと私の方を振り返り、しばらく黙り込んだ。
「……どうしたの?」
「…………ん」
キヨくんは自分のズボンでごしごしと手のひらを拭うと、私の方にすっと差し出した。彼のスラッと長い指の綺麗な手を見つめて「え……」と絶句すると、キヨくんは早くしてくれとでも言うようにすっと私の手を取った。
「人混み、抜けるまでだから」
「……うん」
いい歳して手を繋ぐくらいでと思われてしまうかもしれないけれど、10年以上キヨくんの手に触れずに過ごしてきた私からしたら、相当ビッグなイベントなわけで。
ぎゅっと優しく握られた手を見つめながら、激しく動き回る心臓に狼狽えている。手汗かいてないだろうか。女の私より綺麗な手を見つめつつ、人混みの中を彼について行く。さっきよりも幾分歩きやすくなった。
「……キヨくんの手、冷たい」
「心が暖かいからね」
「自分で言う……」
「へへ」
キヨくんは小さく笑う。
心臓の音が伝わってしまいそうで怖い。
さっきまでと打って変わって口数の少ないキヨくんは、「あ」とお目当ての店を見つけたようで、「ちょっとここで待ってて」と私に告げてぱっと手を離した。
名残惜しい。握られていた手をきゅっと握って頷いて、私は道の端の方で、ほぅっと突っ立ってキヨくんが戻ってくるのを待つことにした。
(今日、まるでほんものの恋人みたいだな、なんて)
ニヤける頬を抑えつつ、幸せを噛み締める。キヨくんを落とそうだとか色々考えていたけれど、そんなのも忘れていつの間にか普通に楽しんでしまっている自分がいて少し呆れてしまう。
「あの」
「……はい」
ぽーっと立っていると、大学生くらいの男の子が寄ってくる。思わずみがまえる。変な人じゃないといいけれど。
彼は声のボリュームを落として「あの、ゲーム実況者のAちゃんすか?」と尋ねた。
「あ。そう、です」
「すげー!やっぱり!」
彼は嬉しそうに口元を抑えながら、「すげー好きです。これからも頑張ってください」と言った。
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parumu(プロフ) - なみのさん» こちらにもありがとうございます!読みやすさとそれっぽさ(?)を意識しているので嬉しいです!笑 これからもよろしくお願いします! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - 夜さん» 長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます、、、!頑張ります! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - さいっっっこうじゃないですか!文章も分かりやすくて最高です!!(二回目) (12月19日 21時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 最初から読んでいます。本当に最高です。文才もあり羨ましいです!応援しています! (12月9日 11時) (レス) id: b9a823def9 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - りんごさん» 読んで頂きありがとうございます💕!🦀さんの声を脳内再生しながら、🦀さんならどうするかなと想像しながらリアルを追求して書いてるので嬉しいです🥲! (12月2日 3時) (レス) @page49 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:parumu | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時:2022年6月23日 22時