058.交わらない目線 ページ11
.
「Aちゃん、キヨくん来たよ」
レトさんちのソファに座って、ぼんやりとテレビを見ていると、レトさんの声にぱっと顔を上げる。レトさんの後ろから、複雑そうな表情をしたキヨくんが顔を覗かせた。
「明日キヨくんちまで迎えに行くから。そこから警察行こう」
「うん。ありがとう、レトさん」
「今度なんか奢りね」
「もちろん」
レトさんに頭を下げて、黙っているキヨくんのあとをついてレトさんのマンションを出た。外に出ると、東京の冬にしては珍しくちらちらと雪が舞っていた。寒気が肌にチクチクと刺さる。
隣のキヨくんを見上げると、彼はモッズコートのフードを頭に被り、コートのポケットに手を突っ込んでいる。マスクもつけているから、あまり表情が見えない上に、何も言葉を発さない。
「キヨくん、ごめんね。迎えに来てくれて、ありがとう」
「……うん」
「晩御飯、間に合うかな?今から向かって……」
「キャンセルした」
「えっ」
無理矢理口角を上げて彼に話しかける私に、キヨくんはフードで顔を隠したまま淡々と言った。「こんなことが起きて、外食なんてしてる場合じゃねーと思ったから」と続ける彼に、それもそうかと思いながらも、ショックを受ける。
楽しみにしていたのは、私だけだったのかな。
「ごめんね、Aちゃん」
「……なんで、キヨくんが謝るの」
「俺がいながら、結局怖い目に遭わせて」
「ごめん」と言葉を続けるキヨくんに私は慌てて、「違うよ、今回のはしょうがないって言うか……私の認識の甘さが」と反論する。キヨくんはそんな私の言葉を聞いているのか居ないのか、「情けねぇ……」と言葉をこぼした。マスク越しだけど、ふわふわと吐かれた息が白い。
「大丈夫だよ。キヨくんのせいでもないし、私のせいだし。それに、人目もあったから全然怖くなかったよ、ほんとに」
「……」
「レトさんがね、警察に明日一緒に行ってくれるの。これできっと安心というか」
「……そう」
なんでこんなに返事が薄いのだろう。
私がどれだけ彼に心配をかけまいと言葉を重ねても、キヨくんは一向に目線をこちらにむけてはくれない。私は続けようとする言葉を飲み込んで、雪がまだらに降り積もる地面をじっと見つめた。
.
767人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「キヨ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
parumu(プロフ) - なみのさん» こちらにもありがとうございます!読みやすさとそれっぽさ(?)を意識しているので嬉しいです!笑 これからもよろしくお願いします! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - 夜さん» 長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます、、、!頑張ります! (12月24日 8時) (レス) id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
なみの - さいっっっこうじゃないですか!文章も分かりやすくて最高です!!(二回目) (12月19日 21時) (レス) id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 最初から読んでいます。本当に最高です。文才もあり羨ましいです!応援しています! (12月9日 11時) (レス) id: b9a823def9 (このIDを非表示/違反報告)
parumu(プロフ) - りんごさん» 読んで頂きありがとうございます💕!🦀さんの声を脳内再生しながら、🦀さんならどうするかなと想像しながらリアルを追求して書いてるので嬉しいです🥲! (12月2日 3時) (レス) @page49 id: 3fe3b17a70 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:parumu | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/parumu_u_62
作成日時:2022年6月23日 22時