【 明治東亰恋伽】もう一度あなたに恋をする〜泉鏡花〜

31話　本音 ページ32

貴方「鏡花さん、いい匂い…」


スリスリと猫のように鏡花さんに擦り寄る


お香のような、落ち着く匂いがする


鏡花「ちょ…あんたっ！」


「離れろよ」という割には強い力で離そうとはしない


私は完全にお酒のせいでおかしくなっていた


貴方「……ずーっと、ずっと一緒にいたいですよ、鏡花さぁん……帰りたくない、離れたくないれす…」


鏡花「…っ！！帰るって、何だよ…」


鏡花さんの動きが止まった


私は目が完全には開いてなく、いや開けない


ぼやっとして見ている


貴方「…私、ここ人じゃないんでしょうか、どうして何も記憶がないんですか…」


鏡花さんの着物をぐっとつかみ、胸元に寄りかかる


貴方「…何かしにここに来たはずなんです、何かを願ってきたはずなんれすよぉ」


──ポロッ


涙がこぼれた


それから、ポロポロととまることのない涙


何故泣いているのかもわからない


小さな子どものように泣いていた


鏡花「……A…っ」


そんな私を鏡花さんは、優しく抱きしめてくれた


優しいお香のような匂いと、温かさに包まれて私はそのまま眠ってしまっていた




障子の外から、音二郎さんはただ黙ってその光景を見ていた────



鏡花「…僕は、もう二度とAを離さないから…」

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