1通話目�� ページ5
とあるビルの裏路地。
人一人通れるほどの細い隙間のその場所に、木でできた扉が一つある。
その扉をくぐると、これまた細い階段が続く。
階段を上ると、板垣探偵事務所、と書かれた看板が置かれている。
そして、その上に「OPEN」の札が掛けられていた。
すると、看板の奥にある黒い扉から、一人の少年が顔を出し、そのOPENの札をひっくり返した。
「CLOSE」の札が顔を出すと、少年は扉を閉めた。
「はぁ…今日も依頼人ゼロですよ、板垣所長」
少年が声をかける先には、小説本片手に、一人掛けソファに深々と腰かける一人の青年の姿。
「いつものことじゃない。って言うか、別に客なんか来なくていいよ、面倒くさい…。わざわざオープンにしなくても、ずっとクローズの札かけておいてよ…」
板垣所長と呼ばれた青年は、小説のページをめくる。
「もう…。このままやったら貯金無くなっちゃいますよ？！僕が所長の助手になって早三年。その間に依頼人からの依頼を受けたのはたったの五件！僕が何とか依頼人からふんだくった依頼料を切り崩しながらやりくりしてるっていうのに…」
板垣「君がそんなことしてくれなくてもいいよ。というか、いやなら無理して助手なんてしなくてもいいよ」
「嫌です！僕は瑞生さんに命を助けてもらったんですから、その恩返しはちゃんとさせてもらいます！」
板垣「命を助けた覚えはないけどね…」
「僕からしたら、助けてもらったも同然なんです！曽野舜太、一生をかけてこの御恩は忘れませんよ」
板垣「はいはい…。好きにしてください」
曽野少年は、この板垣探偵事務所の助手、兼、お手伝い、兼、秘書、兼つまるところ雑用係と言ったところだろうか。
まぁ、彼が勝手に助手にしてくれとこの扉を叩き、勝手に居付いている状況なのだが、当の板垣所長はあまり気にしていない。
それというのも、板垣所長の性格というのは極度のものぐさ、面倒くさがりで、トイレと風呂以外はほとんどこのソファから立ち上がることはない。
食事の時も、寝る時もずっとこのソファに座っている。
そんなに座り心地がいいのだろうかと思い、曽野は所長が風呂の間に一度座ったことがあるが、まぁ、普通のソファだった。
そして、そんなものぐさ所長の身の回りの世話を、曽野は努めている。
ご飯を作ったり、空調を調節したり、部屋の掃除をしたり。
ほとんど来ない依頼人の話を聞くのも、曽野の仕事だ。
今も、掃除機で床を綺麗にしながら、曽野はため息をついた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：milkssss | 作成日時：2019年6月30日 15時
