123 ページ32
.
いつの間にか荒廃した渋谷センター街。
あちこちにさらされた白骨化遺体と、それを隠すように生茂る緑。
太陽を反射するビルの群れには蔦が絡み合っている。
まるで終末世界のような光景を眺めながら、Aは歩みを進めた。
探索をしながら渋谷を目指し、数カ所で飛行船の残骸を確認してきた。
クイナとアンの話を踏まえると残るゲームはあと二つ。
果たして自分は元の世界に帰れるのだろうか。
「A。」
自問自答しながら歩いていると、不意に後ろから名前を呼ばれた。
感情をおさえたような、しかし優しい声音の主は、確認せずとも誰だかわかってしまう。
「チシヤ……」
振り向けばそこには、愛しい彼の姿があった。
口角を上げて笑うチシヤのもとに駆け出すA。
勢いよく抱きつけば、彼は少しよろけたあと胸に飛び込んできたAを力強く抱きしめた。
ふわりと香ってきたのは太陽のようなあたたかい匂い。
「……良かった……チシヤが、生きてて。」
Aは目を真っ赤にしてチシヤにすがりついた。
今にも泣き出しそうなAの髪を撫でるチシヤの瞳はとても優しく穏やかだ。
「当たり前でしょ。約束、したじゃん。」
「したけど……絶対にチシヤなら大丈夫だって、信じてたけど。怖かった……」
Aの目には大粒の涙が溜まっている。
それは瞬きをした瞬間、二人の手の甲にぽたりぽたりとこぼれ落ちた。
堰を切ったように溢れ出る涙をそっと拭うチシヤ。
「……暗闇の中で。」
「ん？」
「いつもチシヤの声がした。」
「それは良い意味？」
「そうだよ。チシヤがいてくれたから、わたしは今こうして生きていられるの……ありがとね。わたしを救い出してくれて。」
大袈裟だなあと笑うチシヤに、Aは再び強く抱き付いた。
「気持ちの整理はついた？」
「うん、おかげさまで。大体はね。」
Aが鼻の頭を赤くしてくしゃりと笑う。
強く吹く風が黒と白銀の髪を乱してゆく。
「チシヤも、あれからいろいろあったんだね。」
「まあね……その話をしたいところだけど。」
チシヤが斜め前方をすっと指差す。
Aがゆっくりと視線を移した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 307人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
shiki(プロフ) - ドラマを見てこちらの小説に辿りつき読ませて頂きました！とても面白かったです！続きのお話も気になり読んでみたいです。よろしければパスワード教えて頂けますでしょうか😌？ (5月4日 13時) (
レス) id: 0b2b8118a9 (このIDを非表示/違反報告)
Miro(プロフ) - とても素敵なお話でした！よろしければパスワード教えて頂きたいです！ (12月11日 0時) (レス) @page47 id: fd725bb22b (このIDを非表示/違反報告)
みかん(プロフ) - 面白かったです！まだ大丈夫でしたらパスワード教えていただきたいです！ (12月3日 19時) (レス) id: a20e214c83 (このIDを非表示/違反報告)
のんき(プロフ) - とても面白かったです！続きのお話も気になるので宜しかったらパスワード教えて頂きたいです！m(_ _)m (10月3日 8時) (レス) id: da26660dd9 (このIDを非表示/違反報告)
おこめ(プロフ) - ゆんさん» ゆんさん、ペントレに引き続きこちらの作品も読んでくださったのですね！とても嬉しいです！ありがとうございます🥲メッセージにてパスワードお送りしましたのでご確認ください🐈💐 (5月18日 1時) (レス) id: 9157f8724a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おこめ | 作成日時：2023年2月21日 1時
