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数時間歩き続けたAは、疲労困憊といった様子でショッピングモールのソファに腰を下ろした。
♠︎のキングに襲撃された渋谷のセンター街からはかなり離れたはずだ。

目の前にあるテナントのコーヒーショップをなんとなく見つめる。
ぽつんと立っているブラックボードには色鮮やかな期間限定の文字。
それと、たっぷりクリームがのったピンク色のドリンクと桃の写真。
そういえば友人と飲みに行こうと約束をしていたなと思い出す。

ーー元の世界には、もう戻れないのかもしれない。
脳内が暗い思考に支配されそうになり、Aは思わず首を振った。


「近くにゲーム会場があるね。」


ふんと鼻を鳴らしたチシヤが隣に座る。
汚れた衣服を着替えるついでに周囲を探索してきたのだろうか。


「5キロくらい離れてるけど、Aはまだ歩ける?」


ポケットから長期保存水のペットボトルを取り出しAに差し出すチシヤ。
Aはありがとうと言ってそれを受け取ると、静かに喉を潤した。
水分が細胞に染み渡っていくようだ。
深く息を吐いたAがチシヤの方を直視する。


「もう大丈夫。日が暮れる前に移動しよう。」

「……キツくなったら言ってよ。」


ゲーム会場まで運んであげるから。
チシヤがいたずらっ子のように、にやりと笑う。
小さく頷いたAが、自身の口元にそっと手を添えた。

うまく笑えない。
今までどうやって笑っていたのだろうと困惑するAの背中を、チシヤが優しく撫でる。


「ごめんね。」


悲しそうに揺れるAの瞳を、目を細めたチシヤがしばらく見つめていた。




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shiki(プロフ) - ドラマを見てこちらの小説に辿りつき読ませて頂きました!とても面白かったです!続きのお話も気になり読んでみたいです。よろしければパスワード教えて頂けますでしょうか😌? (5月4日 13時) (レス) id: 0b2b8118a9 (このIDを非表示/違反報告)
Miro(プロフ) - とても素敵なお話でした!よろしければパスワード教えて頂きたいです! (12月11日 0時) (レス) @page47 id: fd725bb22b (このIDを非表示/違反報告)
みかん(プロフ) - 面白かったです!まだ大丈夫でしたらパスワード教えていただきたいです! (12月3日 19時) (レス) id: a20e214c83 (このIDを非表示/違反報告)
のんき(プロフ) - とても面白かったです!続きのお話も気になるので宜しかったらパスワード教えて頂きたいです!m(_ _)m (10月3日 8時) (レス) id: da26660dd9 (このIDを非表示/違反報告)
おこめ(プロフ) - ゆんさん» ゆんさん、ペントレに引き続きこちらの作品も読んでくださったのですね!とても嬉しいです!ありがとうございます🥲メッセージにてパスワードお送りしましたのでご確認ください🐈💐 (5月18日 1時) (レス) id: 9157f8724a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おこめ | 作成日時:2023年2月21日 1時

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